概要
横河マニュファクチャリング株式会社(YMG)は、差圧・圧力伝送器をはじめとするフィールド機器、電気や光を測定する計測機器など、さまざまな電気機械器具を生産しています。YMGはNYPS(New YOKOGAWA Production System)を基本姿勢として、生産物量の平準化や製品製造プロセス全体の改善に継続的に取り組み、YOKOGAWAグループのマザー工場として日本国内のみならず海外生産拠点のものづくりをリードしています。なかでも独自のユニークな生産技術を活かして構築した「絶対に作り間違えない生産ライン」は、YMGの高い生産性を支えています。また、甲府事業所の計測標準センターは、公的機関によって国家基準に校正された標準器や校正装置を備えており、これらを用いて調整・校正を行うことで、YMGは世界トップレベルの高精度・高品質の製品を提供しています。
YMGの甲府事業所では、製造品質をさらに高めてお客様に貢献するために、一体形無線振動センサ Sushi Sensorを採用しました。工場内の重要な機器にセンサを取り付けて設備の状態を監視することで、最新技術を備えた止まらない工場を目指しています。
課題とソリューション
製造品質向上のための振動モニタリング
甲府事業所には、2交替や3交替で稼働している製造ラインもあります。万が一工場のユーティリティが止まってしまうと、生産効率とコスト効率の低下につながってしまいます。特に、厳しい空調規格が定められているクリーンルームや、機器の調整・校正に利用している計測標準センターの空調が止まった場合には、製造品質に大きな影響があります。
工場では、従来から目視や音、触診によって必要な保守点検が適切に行われてきていましたが、工場全体の保守品質および製造品質をさらに向上させるために、IoTを活用した機器の振動モニタリングを行うことを決定しました。
85台のSushi Sensorを設置
2018年12月、甲府事業所の敷地内にある重要なポンプやモータ(回転機)計85カ所に、XS770A 一体形無線振動センサが取り付けられ、軸受けの摩耗劣化の傾向監視が始まりました。センサは一時間おきに回転機のZ軸の加速度、速度、および表面温度を測定し、クラウドにデータを送信します。
システム構成図
クラウド上に蓄積されたデータは、IoTデータと運転情報を関連付けて迅速な意思決定を支援するYOKOGAWAの産業用IoTデータロギング&ダッシュボードに表示され、データの動きやトレンドを確認することができます。定量監視が必要な機器にはしきい値を設定しておくことで、それを超える値が測定された場合に、ダッシュボードや電子メールを通じて管理者にアラートを通知することもできます。
産業用IoTデータロギング&ダッシュボードの画面例
ポンプやモータに取り付けられたSushi Sensor
故障の予兆を検知
設置してから一年、保守担当者による日常点検時には特に異常はありませんでしたが、Sushi Sensorによって空調用冷却水ポンプの振動に異常な値が検出されました。YMGではこれを故障の予兆と位置付け、注意深く機器のデータを見守ることにしました。はじめの異常値から2カ月経った頃、再び振動値がしきい値を超え始め、現場でも異音が確認されたため、ポンプを交換することが決まり、故障してしまう前に計画的に交換を行うことができました。
甲府事業所の空調設備更新計画では、同年度末までに当該ポンプを更新する計画でした。この事実を照らし合わせると、Sushi Sensorは予兆を検知しただけでなく、保守ノウハウや保守計画が正しかったことも証明しました。
Sushi Sensorが検出した異常振動
3年間の運用実績と今後について
85台のSushi Sensorのうち約20台は屋外に設置されており、風雨にさらされている状態ですが、トラブルなくデータを送信し続けています。一部鉄扉の内部に設置されているものがありますが、通信の抜け落ちは確認されていません。ただしこれらの電池の消耗が他より若干早いことから、通信のリトライを行っているのではないかと考えられています。
アラートを通知するためのしきい値は、一度設定したら終わりではなく、機器の経年劣化や設置環境の変化に応じて見直していく必要があります。Sushi Sensorによって蓄積されているデータと、現場で確認する聴診による異音・触診による異常振動などの保守ノウハウとを組み合わせながら、YMGは今日も新たな知見を磨き続けています。
ユーザの声
「Sushi Sensorは小さくて簡便ですが、優秀です。使い込んでいくとさまざまなことが分かってきます。たとえば、装置側に異常がなくても、ポンプ等の回転機が設置されている架台を更新した、あるいは配管更新の都合で設置位置を変えるなどした場合、元々定常状態だった振動値が若干変化する、いわゆる“モノサシ”となるベースラインが変化することがあります。このような場合にはしきい値の変更も視野に入れ、運転の変化を正確に捉えて対応していくことで、製造品質向上につなげていくことが重要だと思っています。
私たちのようなディスクリート系の製造工場では、事後保全、すなわちある程度の保守部品を持っておいて、装置が故障したらできるかぎり迅速に修理交換する方が、コストが低く抑えられることは事実です。しかし、新たなIoTテクノロジーを取り入れ、生産技術を日々向上させることは、お客様にさらに高品質なものづくりを提供することにもつながります。
今後のチャレンジは、生産技術・製造・設備の各部門のさらなる連携です。センサの数が多くなると、管理や監視にそれなりの工数がかかります。管理業務を効率化したり、しきい値を継続的に見直すなど、それぞれの部門の知見を活かして取り組んでいきたいと思います。効率化や自動化のために、AIの導入なども検討しています。
私たちは、お客様と同じものづくりをする仲間でもあります。お客様と同じ課題を共有し、自らのノウハウを磨くことで、お客様に高品質のソリューションを提供していきたいと思っています。」
横河マニュファクチャリング株式会社
生産統括本部VOF推進室 井上 辰也さん
関連製品&ソリューション
-
産業用IoT データロギング&ダッシュボード
装置の状態データとプラントの運転データを関連付けて、迅速な意思決定を支援
-
Sushi Sensor
省電力・長距離の通信を実現する広域無線通信方式LoRaWANに対応し、耐環境性に優れたIndustrial IoT(IIoT)向け無線ソリューション