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共創型リーダー教育への挑戦(3)- 産官学融合のラーニングコミュニティ「GPP」が目指す未来の社会へ -

 

共創型リーダー教育への挑戦(3)-産官学融合のラーニングコミュニティ 「GPP」が目指す未来の社会へ-

最終回となる第3回では、早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所(GSRI)所長のジョエル・ベーカー・マレン准教授による説明も交えながら、より幅広いラーニングコミュニティとして発展した産官学融合の共同プロジェクト「Green Phoenix Project(GPP)」について、詳しくご紹介する。

 

早稲田大学GSRIとのコラボレーションが結実した「Green Phoenix Project」とは?

YOKOGAWAと早稲田大学GSRIの共同プロジェクト「Green Phoenix Project」(以下、GPP)が発足したのは、2021年のことだった。このとき、池上重輔教授と玉木伸之が意図したのは、(1)本プロジェクトをじっくりと立ち上げていくこと、(2)ニュートラルな姿勢を保つこと、そして(3)アカデミックとビジネスに関わる人々が、年齢や地位に関係なく自由に意見を交わせる、開かれた場を提供することだった。つまり、サステナブルな未来を志向する「産官学融合のラーニングコミュニティ」のプラットフォームとして機能するのが、GPPというわけである。

その結果、YOKOGAWAの社内に特化した未来共創イニシアチブのネットワークをさらに社外へと広げることで、GPPはビジネスのオープンなプラットフォームを多分野の企業・教育機関などと共に作り上げていく場となった。

マレン准教授

マレン准教授は、そもそもGSRIには二つの目的があると語る。

「一つ目は、学術的な観点から、サステナビリティに関してより良い研究を行うこと。そして二つ目の方が重要なのですが、実務家や企業と直接関わることで、実践的な視点からサステナビリティの理解を深めることです」

マレン准教授によると、学術界の研究が、経済界の実務には反映されていないケースが多いのだという。これは、学術界で生み出された貴重な洞察で、ビジネス界には全く知られていないものが多数存在することを意味している。だからこそ、アカデミックな洞察や知識を企業に伝達するためのチャネルを提供することが、より重要になってくるわけである。

マレン教授は続ける。「学術界がビジネス界と協働するメリットを生むためには、この伝達のプロセスが双方向に進む必要があります。経営学は応用科学の分野なので、私たちが研究する内容がビジネスの実践や課題と結び付いていなければなりません。両者が協働する場を設けることで、私たち研究者と企業側の実務者は、現状の課題や有益なナレッジを共有できるようになるでしょう」。

玉木氏と池上氏、マレン氏

特に、サステナビリティ分野でのアカデミックな知見は、まだ企業に活用されていないのが現状だ。そこでGSRIは、GPPを通じて学術界と企業をつなぐ橋渡しの役割を果たすことを目指している。

 

“GPPの輪”? ~連鎖的に広がる共創の良き仲間~

当初、池上教授と玉木は、GPPのスターティングメンバーを十数社程度の少数に抑えようと考えていた。大抵の場合、人は20人以上が集まると議論がまとまらなくなる傾向があるからだ。かといって、多い人数を分散させて分科会方式にしてしまうと、議論の内容が薄まってしまう恐れもある。そのため、立ち上げから初めの3~4年ほどはまず基盤づくりに専念し、あえてメンバーの数を増やすことを目指さなかった。

ところが池上教授らの思惑に反して、2023年7月時点でのGPP加入者は33法人(YOKOGAWAと早稲田大学を含む)にまで膨れ上がった。これは、未来共創イニシアチブへの共感とともに、外部パートナー企業同士の密接なつながりが作用した結果だといえるだろう。

未来共創イニシアチブチーム会議の様子

「将来的には、GPPがグローバルな規模にまで拡張する可能性があります。ただ、過去には最初にきちんとした基盤づくりをせずに規模だけが拡張し、途中で崩れてしまった数多くの事例を見てきたので、GPPはその反省を踏まえて、基盤をしっかりと固めておきたかった」。そう語る池上教授は、本プロジェクトの基盤を次の二つの面から構想している。

「一つは内容面。プロジェクトの目指すものがある程度まで十分に蓄積されたと、自他共に認められる水準に達する必要があります。もう一つは、設立時のコアメンバー以外にも、その後に続くコアメンバーがいる状態になること。つまり、もともとのコアメンバーが不在でも、外部から参加したメンバーがきちんと動いてくれるような状態。これら二つの条件が整って初めて基盤ができたといえるのですが、その状態を確立するには、どうしても3~4年はかかるでしょう」

無論、予想していたよりもメンバーが多く集まったからといって、基盤ができないわけではない。むしろ、これだけメンバーの数が増えても現状をうまく進められているのは、いわば“人脈のわらしべ長者”のような形で、良い共感者が連鎖的に増えたからではないか、と池上教授は分析する。

「そもそもGPPは、YOKOGAWAとGSRIがそれぞれ同じ目的に資する人脈を互いに持ち寄り、相互補完的に集めてスタートしました。その後、来てよかったと思った人が、また別の人を呼んでくる。すなわち、良い人の友だちは良い人であるという“GPPの輪”とでも呼ぶべき現象が続いているのです。このような形で来たメンバーを、私たちは決して拒みません」

他方、玉木はGPPに集うメンバーを“共創の旅に出る仲間”と表現する。

「GSRIとYOKOGAWAの二者が組んだだけで、GPPが機能するわけではありませんから、新たな世界の探索を共に楽しんでくれる仲間が不可欠です。ちなみにGPPは、単にステータスがあるとか、権威のある人を呼んでくればいいという性格のプロジェクトではありません。現在のパートナーは、未来志向で、より良い社会を目指している経営層や、サステナビリティ、デジタル、イノベーションなどの各分野でリーダー格となっている人たちが多いですね。また、そのリーダーが一緒に連れてくる、後継者候補として有望な若手の参加者もいます。社会や産業の未来を共創するために、業界や世代、専門性の枠を超えた仲間たちと対話を深め、創造的なコミュニティをどのように育てていくかを考えています。皆さんにも、このプロセスを楽しんでいただけているようです」

玉木氏と池上氏、マレン氏

 

若者の積極的な起用が、停滞する日本社会の突破口に

昨今では、スタートアップ企業を中心として、フラットな人間関係の組織づくりが採用される傾向が徐々に高まってきた。しかし、そのトレンドが日本のあらゆる企業にまで浸透しているとは、まだまだ言い難い。組織の垣根を超えてオープンに意見を交わせるなど、新しい試みが依然として難しい旧来の企業風土が蔓延する中で、未来共創イニシアチブやGPPのように風通しの良い対話の場が生まれたのは、極めて異例だといえる。

池上教授は、「ホフステードの6次元モデル」※ という文化測定フレームワークを引き合いにして、次のように説明する。

「ホフステードの6次元モデルによると、日本社会は『権力格差』のスコアが非常に高い。つまり、マスキュリニティ(男性性)の社会的権威を重要視する度合いが高く、医者や政治家のように権威性が強い職業をはじめ、“自分よりも年上の男性であれば人間としても優れているべき”だと受け止められるのです。一方、北欧諸国などではこのスコアが低く、年齢や社会的地位、職業などは人間的な優劣と関係がないと捉えられています」

その結果、日本では長らく、男性シニアの権力や発言が過度に評価され、今のような日本社会の停滞を招いている一因となっているのだと、池上教授は警告する。

※ オランダのヘールト・ホフステード博士が提唱した国民文化のモデル。(1)権力格差、(2)集団主義/個人主義、(3)不確実性の回避、(4)男性性/女性性、(5)短期志向/長期志向、(6)人生の楽しみ方、という6つの指標がある

「若者はもともと、日本を救うだけのクリエイティビティ(創造性)を持っています。ところがそれらのクリエイティビティは、現場で十分に生かされていません。重要なポイントは、経営層を含む上の世代が、若者たちが主体となって活躍する場を与え、支援し、そして壊さないようにすることです」

一般的に、若者の発言や発想を経営戦略に生かす試みを、旧態依然の日本企業で実践することはなかなか難しい。しかし、YOKOGAWAの奈良寿代表取締役社長が「若手中堅社員にメンターを務めてもらう『リバースメンタリング』の仕組みを設けたい」と考えているように、若者に権限を与えていくことが何よりも重要だという。

 

多様性を生かすことが、サステナブル社会を創出する

池上教授によると、GPPの最たるメリットは“異質の邂逅”だという。これは、専門分野の異なる人たちが出会い、協力すれば新しいものが生まれるという、ダイバーシティの要諦そのものだ。

「GPPにおいては、玉木さんと私の役割はクリアに分かれていて、それが相乗的にうまくいっています。玉木さんは企業人として『想い』を伝えて活動し、人を動かして、物事の流れをつくり出す。私は学者として、玉木さんの『想い』を体系的に言語化し、全体的なまとまりを仕上げていく。それらの言語化された情報を基に、玉木さんはさらなる発想を発展させる――。このような“ポジティブなループ”が次々とできていますし、私とジョエル(マレン准教授)の間でさえ、二人の専門分野が違うので同じように良い刺激を与え合っているのです」

最後に、「Green Phoenix Project」という名称の由来をご紹介しよう。

Green Phoenix Project

これは池上教授が、83歳になるお母様と話しているときにヒントを得たものだ。「日本を不死鳥(フェニックス)のごとく蘇らせたい」という想いと、「社会をサステナブルなものにしていく」という決意を表現するために、不死鳥をモチーフとした。シンボルカラーは赤ではなく、サステナビリティを表すのによりふさわしいグリーンを選んだ。

未来共創イニシアチブとGPPの目指す先には、壮大な理想と明るい未来が期待されている。

池上氏、玉木氏とマレン氏

 

池上 重輔

池上 重輔
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学 大学院経営管理研究科)
教務担当教務主任、博士(経営学)、教授
ガバナンス&サステナビリティ研究所 研究所員

趣味はバスケットボールとスイーツ巡り

マレン ジョエル ベーカー

マレン ジョエル ベーカー
早稲田大学 商学学術院 商学部 准教授
ガバナンス&サステナビリティ研究所 所長
博士(経営戦略・組織学)

趣味は尺八とハイキング

玉木伸之

玉木伸之
未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー

趣味はスキー、クラシック音楽鑑賞、旅行

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