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企業文化変革へのチャレンジ(2)-「個の力」を引き出す人的資本経営の実践 -

企業文化変革へのチャレンジ(2) ―「個の力」を引き出す人的資本経営の実践―

若手社員の原体験に秘められた大きなポテンシャル

※所属や役職は記事制作時(2023年2月)のものです

これまで大量生産・大量消費の経済システムが中心だった時代、YOKOGAWAをはじめとする製造業界においては、需要予測や計画立案を重視する傾向があり、予定された計画やKPIに基づき、PDCAサイクルを回すことに力を注いできた。ところが、いわゆる先の読めない「VUCA」の時代に入り、単に計画を実行するだけではなく、これまで以上に外部環境変化にアンテナを張り、変化に素早く対応する計画修正力や、柔軟性の高い実行力が求められるようになってきた。

それは多くの事業や人財育成の場においても同様であり、今までにないアプローチを探索し、試みていくことが重要となっている。そのためには、事業運営を“計画重視型”から“実行重視型”へと大きな転換を図り、新しいアプローチを実行するプロセスから多くを学ぶことが必要だ。部外者からは一見、寄り道や無駄だと思えるような試行錯誤でも、そのプロセスこそが組織や人に「学習と成長」をもたらす。これからは小さなトライアル・アンド・エラーを重ね、何かをつかんでいく姿勢が求められている。

そこで玉木は、こういった試行錯誤や人々の対話を繰り返し、計画を都度修正しながらスパイラルアップで学習していくことが効果的なのではないか、と考えた。初に試みた人財育成プログラム「Project Lotus」は、社内での実験的な取り組みとして展開された。参加メンバーの要求や市場状況に応じて進化し、さらに外部との協力を促進することで、「未来共創イニシアチブ」という形で発展を遂げた。

玉木氏と松井氏

Project Lotusの開始から2年が経過した頃、研修に参加した若い社員から「対話が進んでいるから、もっと共創的な活動がしたい」と玉木に提案があった。また別のシナリオアンバサダーからは、「さまざまなインプットをしていく中で、『次世代を守りたい、地球の未来を守りたい』という思いを持つようになった」とも。ほかにも、本活動に同じような価値を感じるシナリオアンバサダーは、確実に増えていった。

それに加えて、複数のお客さまやビジネスパートナーの経営陣から、社会や業界の未来に関する共創的対話を一緒に続けたいというフィードバックも寄せられた。かくしてProject Lotusは、2021年4月に奈良寿代表取締役社長直轄の組織横断チーム「未来共創イニシアチブ」へと発展することになった。ちなみに「共創」という象徴的な言葉は、若手社員たちの提案により採用したという。

玉木氏

このように若手社員が活動を主体的に推進していく姿勢を、松井は人事の立場から高く評価している。

「未来共創イニシアチブのチームは若い世代が中心なので、知識・スキル・経験が不足することは否めません。ただ、非常に素晴らしい『原体験』を積める素地があります。これこそが“型を破る”人財の育成になると思うのです。

結局、人間は知識を頭に入れたからといって、そのまま行動できるわけではありません。腑に落ちないことに対しては、本気になれないのです。その点が、研修と未来共創イニシアチブのユニークな違いです。何かを会得した人がやると迫力も出るし、熱意も出てくる。それはやがて意志の発露になっていく。そうやって原体験を重ねていくうちに、もっと大きなステージで力を発揮できるようになっていくはずです」

松井氏

 

マインドセットチェンジを促す未来共創イニシアチブの価値

2022年12月、松井はシナリオアンバサダーと共に金沢での合宿に参加した。若いメンバーと食事を共にし、車座になって語り合ったが、当時の彼らがみなぎらせる力強さに驚いたという。

「足で稼いだ知識もある。課題図書から得た知識もある。フレームワークも学んでいる。さまざまなビジネスリーダーと堂々と渡り合っている。自分たちが良いと思ったことを共創している。そうした経験が、彼らの大きな自信になっているようでした」

さらに、未来共創イニシアチブが“他流試合”だからこそ、彼らの急速な成長が実現できているのでは、と松井は分析する。そのことで、共創先のパートナー企業から称賛の言葉をもらってうれしかったという、あるエピソードを語ってくれた。

「『あなたの所には良い若手がいるね』とか、『自由な人財育成を伸び伸びとやっていてうらやましい』などのお褒めの言葉をいただいたこともありました。

もちろん企業ですから、型にはめる教育も大事なプロセスです。でも、はめるだけでは人は育ちません。『守破離』と言われるように、型を学んだ後は、あえて型を破らせることが必要です。型を破るには、時にはさまざまな方向に向けて突破するような行動を取らなければなりませんが、頭をぶつけて痛い目に遭いながらも成長してくれたら、こんなに良いことはありません」

他方、「成長するには、新しいことを学習する必要があります。しかし、効率性や結果ばかりを重視した組織では、日常業務の中で未来に備える創造的な学びの時間と機会を十分に持つことは難しい」と指摘するのは玉木である。

玉木氏と松井氏

「伸びしろのある人に、主体的に学べる機会を与えれば、学習プロセスを通して自律的に成長・成熟してくれます。そうして得た学びを分かち合うのが、未来共創イニシアチブのマインドセット。そして、そのときにキーワードとなるのが『緩いけれども信頼のあるつながり』です。これはつまり、縦のライン組織とは別に、多様な社内外の横のコミュニティに属する『個』の存在が、共感ベースでつながるということです」

とはいえ、このようなマインドセットは、YOKOGAWAの伝統からすると異質な文化だと松井は言う。

「YOKOGAWAの実行力は素晴らしい。でも、多面的に緩くつながるのはどちらかというと苦手のようです。自己否定するつもりはありませんが、これまでの成功体験に基づく行動だけでは、世の中から期待されていることが、いずれ実現できなくなります」

そこで松井が強調するのは、マインドセットチェンジだ。

「YOKOGAWAの組織と個人のマインドセットを、ダイナミックに変えていく。それを牽引する流れの一つが、未来共創イニシアチブの活動です。よく“人は石垣”と言いますね。組んだ石垣が固いのは、お互いに共感し合っているからです。

松井氏

結局、どんなにあれこれ予想したところで、未来はどんどん変わっていく。でも、共鳴し合っている組織や、社内外と共創できる集団は、想像もできない力を発揮して変化に対応していくことができる。これが、未来共創イニシアチブへの期待値であり、最大の価値なのかもしれません」

 

より良いつながりを目指して ~人的資本経営が目指すもの~

2021年には、未来共創イニシアチブが「HRアワード2021」(日本の人事部「HRアワード」運営委員会主催、厚生労働省後援)」に選出され、企業人事部門で入賞を果たした。

また2022年には、全社でグローバルに開催される表彰式「YOKOGAWA Group Awards Ceremony」において、本活動が「Special Award」を受賞。本賞は、YOKOGAWAグループに大きく貢献したチームや社員を選出し、その功績を称えて、模範となる行動を受賞者以外の社員にも認知・理解してもらうことを目的としている。

松井は言う。「『Special Award』を受賞したポイントは、未来共創イニシアチブのユニーク性として、社外のステークホルダーと共創し、活動を拡大させていること。そして、未来シナリオが中期経営計画・長期経営構想に活用されていて、実効性があるということでしょう」。

さらに2022年、YOKOGAWAは世界的なESG投資の指標である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス」の「World Index(DJSI World)」で、再び構成銘柄に選定された。未来共創イニシアチブは、その選定要因の一つと考えてもいいだろうか。松井は自身の分析を語る。

「DJSIは膨大な種類のインデックスの塊ですので、未来共創イニシアチブだけで点数が上がるわけではありません。ただ、財務指標に表れない活動として、新たな企業風土の醸成に大きく寄与しているのではないでしょうか。

非財務情報は非常に重要であり、人的資本に関わる部分が一番大きいと思っています。やはりYOKOGAWAの人的資本を語るときに、未来共創イニシアチブの活動はプラスのファクターに成り得ると考えています」

未来共創イニシアチブの取り組みが、やがてより良い社会へとつながる可能性も見逃せない。松井は期待を込めて話す。

玉木氏と松井氏

「個人の成長と会社の成長、そして、より持続可能な社会への変革というものが有機的につながっているのが、非常にユニークだと思いますね。まだまだ駆け出しですけれど、世の中に問うてみる価値はあるんじゃないかと思います」

人的資本経営の実践に向けて、本活動の挑戦はこれからも続いていく。

 

松井幹雄

松井幹雄
執行役員人財総務本部長

趣味は料理とジョギング

玉木伸之

玉木伸之
未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー

趣味はスキー、クラシック音楽鑑賞、旅行

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米国発テックカルチャー・メディア『WIRED』に掲載された、「未来共創イニシアチブ」の英文記事

 

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