プロセス知見とデータ解析技術の融合による高品質なものづくりの実現~機械学習を用いたデータ解析事例~

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概要

1944年創業の住友精化株式会社は、日用品、医療・医薬、エレクトロニクス、自動車等幅広い分野に向け、社会に貢献するユニークな化学製品を提供する日本の化学会社です。
住友精化の独自の重合技術や微粒子化技術による高品質な製品は、日本のみならず海外からも高く評価されています。たとえば同社の主力製品である吸水性樹脂は粒径が均一で流動性が高く、きわめて使い心地の良い最終製品ができるため、多くのユーザから高い信頼を得ています。

同社の姫路工場は、吸水性樹脂および機能化学品の主力工場です。研究所も有する姫路工場は、海外生産拠点も含め、さらなる高品質化・高性能化に取り組むマザー工場でもあります。

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お客様の課題とソリューション

品質改善と製造ノウハウ集約のための解析ソリューション

住友精化の姫路工場が製造している数多くの機能性化学品の一つに、ラジカル重合プロセスによる特殊ポリマー製品があります。その製品には数多くの銘柄がありますが、そのうちの一つの銘柄は、他の銘柄に比べ、品質のばらつきが認められました。

姫路工場の工場長である上村 和久様は、YOKOGAWAの解析ソリューションを利用することになったいきさつを、次のように振り返ります。
「当社ではこれまでも、自社の中で解析を行ってきており、その成果を元にさまざまな改善活動を行ってきました。この特殊ポリマー製品についても同様に解析しようと思ったのですが、現場スタッフたちの話を聞くと、これは難しい課題だと思いました。なぜなら、製造プロセス自体の複雑さもあるのですが、なにより製造スタッフたちが品質をコントロールするための製造ノウハウを驚くほどたくさん持っており、それらを整理するのは大変な作業だと感じたからです。この銘柄の製造プロセスは、本当に奥が深いのです。
そこで、データ解析による品質改善と、各自が暗黙知として持っている大量のノウハウを整理するために、YOKOGAWAの解析ソリューションを利用してみることにしました。
また、弊社は組織の壁を乗り越えて課題解決に取り組む活動にも力を入れており、今回の活動も人財育成の側面から、メンバーが部署を越えて積極的に取り組んでくれることを期待していました。」

姫路工場では、製造に実際に携わり多くのノウハウを持つ製造部門に加え、化学工学的知見を持つ技術室、新銘柄・製品の開発に携わる研究所、姫路工場全体を把握する業務室からもメンバーが選抜され、YOKOGAWAの解析エンジニアを含めた解析プロジェクトチームが編成されました。

幅広い知見を持つメンバーによる解析プロジェクトチーム
幅広い知見を持つメンバーによる解析プロジェクトチーム

解析の指針となる「着眼点リスト」をプロジェクト一体活動で作成

反応を伴うプロセスでは、異常発生の要因は一つではない場合が多く、それぞれの要因間における相互関係も複雑です。気温や不純物など外乱の影響も考慮しなければなりません。さらに、解析対象の特殊ポリマー製品は、昇温中に添加剤を添加しながら反応を進めていくという、制御の難しい製造工程を必要とします。
解析プロジェクトチームはディスカッションを重ね、現場の製造スタッフが持っている膨大な知見や製造ノウハウのほか、技術部の化学工学的視点、研究所の製品開発側からの視点を集約しました。その上で、製造工程全体において考えうる異常の要因を洗い出し、製造現場の管理に不可欠な要素である、原料(Material)・設備(Machine)・オペレーション(huMan)・製造レシピ(Method)の4Mに外乱を加えた項目に分類しました。そして要因ごとに、異常が発生した場合に起こりうる物理現象について仮説を立て、「着眼点リスト」としてまとめ、解析の指針としました。

解析のながれ

1.データの層別

解析対象のデータは、PIMS(プラント情報管理システム)に蓄積されたプロセスデータのみでなく、品質や工程の情報を管理するための代表値データ、さらには運転日誌に記された情報までを対象として、解析が始められました。
一般に、バッチプロセスではいつも同じ銘柄を製造しているわけではなく、設備の内部に前銘柄の物質が残り、品質に影響を与えることもあります。また、製造時季が異なれば、原料の保存期間の違いや設備へのスケール付着など、さまざまに状況が異なることもあります。さらに現場では、スケール付着の影響を考慮して運転条件が変更されていることもありました。
このように運転条件が大きく異なるロット同士を比較しても、真の要因を見つけることはできません。そのため、数多くのロット情報の中から、解析対象の異常ロットに合致する運転条件で製造されたロットを抽出し、トレンドを比較することから作業が始められました。

2.外乱の影響

化学反応を伴うバッチプロセスの解析を進める上では、外乱として不純物の影響を考慮しなければなりません。解析プロジェクトチームは反応を阻害する要因を特定し、工場のラボ設備を用いて、その要因である物質が反応にどの程度寄与するかを検証しました。不純物の影響度合いは、製造時に蓄積されているデータのみでは検証できないものが多いため、このようにラボ設備のデータを活用することも課題解決のステップに必要なことです。


着眼点リストの構成
着眼点リストの構成

3.特徴量の抽出

バッチプロセスの解析を行うには、データに潜んでいる反応の進行を表す特徴的な挙動を抽出し、特徴量として数値化することが有効です。特徴量の抽出には、データそのものだけを用いるのではなく、複数のデータから算出した発熱量などの物理量を用いることや、積算・正規化などの変換処理を用いることも必要です。変換処理によってデータの形を変えることにより、これまで見えなかった挙動の差を確認できることもあります。このように、特徴量を抽出することで、異常要因を効率良く発見することができます。
YOKOGAWAの解析ツールであるProcess Data Analyticsは、特徴量の抽出、特徴量間の関係性の把握、異常要因の特定を効率良く行うことを可能にするツールです。

Process Data Analyticsの画面例
Process Data Analyticsの画面例

4.反応の各段階における特徴量の選定

特徴量が掴めても、単に品質値と特徴量の関係性を解析するだけでは、真の異常要因を追究することはできません。異常要因を紐解くためには、反応の進行に合わせてデータを解析する必要があります。解析プロジェクトチームは、反応を初期・中期・後期に分け、それぞれの特徴量を算出して、製品品質との関係を解析しました。

一例として、次のような解析が行われました。
重合槽内で反応が進行しポリマーが析出することで、攪拌負荷が上がり攪拌電力量が大きくなるということに注目し、攪拌電力量がピークになるタイミングを反応後期の特徴量としました。その解析の結果、反応後期の「特徴量」と「品質値」および「連続添加している添加剤の総量」に強い相関関係が確認されました。
ただし、製品品質を改善するためには、攪拌電力量のピークを迎える前にアクションを起こさなければなりません。解析プロジェクトチームは引き続き、反応後期の特徴量を決定づける別の特徴量を探索し、反応中期の「反応開始直後に生じた熱量」との関係性を確認しました。その結果から、反応開始直後に生じた熱量に応じて添加剤の量を調整することで、品質値をコントロールできるであろうという結論に至りました。

このように、データの側面から品質値と特徴量の相関や特徴量間の関係性を紐解くことを基本に、製造視点、反応視点、化学工学的視点および4M視点で解析結果を解釈することが課題解決を推し進める上では必要であり、データ解析技術とプロセス知見の融合が不可欠です。

5.機械学習による品質に寄与する特徴量の確認

反応の各段階における特徴量は、最終製品の品質に多かれ少なかれ影響を与えます。その中でどの特徴量が支配的であるかを、機械学習によって選択することができます。これにより、これまでに選定した特徴量の確からしさを検証し、品質の安定化に向けたアクションプランの実施リスクを低減することができます。
解析プロジェクトチームでは、統計的な手法の一つであるステップワイズ回帰を用いて、抽出した特徴量の確からしさを検証しました。その結果、抽出した特徴量の中から、「反応開始直後に生じた熱量」を含め、反応に寄与する三つの説明変数が選択され、その推定結果は過学習もなく再現良く品質値を推定できたことから、最終的にこの三つの特徴量を制御することで品質値をコントロールできると結論づけました。

ステップワイズ回帰によるモデリング結果
ステップワイズ回帰によるモデリング結果

改善の効果

製品品質を変動させる要因が紐解かれたことにより、解析プロジェクトチームは、反応の進行度を示す特徴量に合わせて添加剤の量を調整する新しい運転法案を策定しました。また、特徴量を過去のロットと比較して違いを可視化するシステムの立案も行いました。このシステムは、現場の製造スタッフが反応の進行状態を確認しながら運転を行うことを可能とするものです。
この運転法案で品質値をコントロールし、品質のばらつきを抑制することにより、年間数百万円のコスト改善効果が見込まれています。

解析プロジェクトチームは、着眼点リストを解析の指針として作成し、仮説を立て、データを用いて実証するという解析スタイルをとりました。データの実証を進めるにつれて新たな着眼点が創出されることもあり、この作業の積み重ねによって、課題の全体像の把握、真の異常要因の発見、対策の立案を行うことができました。新しい品質課題が見つかるなど、副次的な効果もありました。
このようにブラッシュアップされ完成した着眼点リストは、解析に携わったメンバー全員の知見を集約し、それをデータで実証した結果であり、今後の技術革新を進める技術標準としても活用できるものです。

解析の文化を浸透させ、データ解析技術とプロセス知見の融合を図ることで、姫路工場ではさらなる製品品質の向上と競争力強化を目指しています。

 

お客様の声

上村工場長の声:

「当初は、YOKOGAWAの解析ソリューションを利用することで、個人個人のノウハウが出てくれば良いと思っていましたが、品質改善について一定の効果を見出すことが出来ましたし、さらに、運転の改革、現場力向上、部署間の連携強化など、さまざまな成果をあげることが出来ました。なにより、これまで暗黙知だったことが整理された着眼点リストの作成は、期待を大きく上回るもので大変満足しています。
今後も高い品質の製品を提供できるよう、私たちが今回新たに得た解析の知見も活かしながら、改善活動を続けていきたいと思っています。」

解析プロジェクトチームの皆さんの声:

Q. 解析プロジェクトに選抜された時の感想は?

「この銘柄の品質改善は絶対に必要だったので、やるべきだと思っていました。」
「解析をやったことがなかったので、はじめは何をするのかイメージが湧きませんでした。これまで過去の知見で改善活動を行ってきましたが、うまくいかず、YOKOGAWAさんの解析に対する期待値は高かったです。」
「選ばれて光栄だと思いました。私は普段経理会計業務を行っているので、自分が参加することで何ができるだろうかと考えながら、プロジェクトに加わりました。」

Q. 解析プロジェクトで得られたことは?

「新たにこれまでの知見と違うことが見つかったり、これまで知っていたことがデータで証明できたことは、とても良かったです。」
「ざっくばらんに色々な部署の人とワイワイできたことが楽しかったです。この条件で製造すれば、途中は分からないけれどもこういう結果になる、という具合に漠然としていたものが、今回の解析を終え、見えるようになってきたので、他の銘柄にも役立てていきたいと思っています。」
「解析と聞いて難しい手法を取るのかと思ったら、僕たちの話を良く聞いてくれ、YOKOGAWAさんがやっているのはとても地道な作業でした。多くのデータを整理して物事を進めるというのは、基本的なことですが大事だと思いました。」
「プロジェクトを通じて情報の整理と見える化を行いましたが、従来はこれまでの経験則にとらわれたり、暗黙知のままだったりで、各部署で情報が閉じてしまっていました。部署横断で皆で集まって知見やアイディアを出し合い、形に残すというのは、教育の面からも良かったです。」

Q. 解析プロジェクトを経験して何か変わりましたか?

「会計データへの接し方が変わったというか、データが価値のあるものに見えるようになりました。たくさんあるデータからどのように知見を取り出すかを考えることで、これまでと異なる視点でデータを活用できるようになりました。」
「私は表計算のソフトを良く使うようになりました。これまでデータがばらついているだけで、相関がないと思っていたデータも、層別などを丹念に行っていくと、これまで見えなかった関係性が確認できることがわかりました。」
「現場の製造オペレータに、『数字で表せるものは数字で示して』 と求めるようになりました。オペレータも、熱い冷たいではなく、どこの工程で何℃、のように具体的に説明してくれるようになってきました。」
「無駄なことや無理なことをやらなくて済むようになったので、オペレータの負荷が軽減されました。」

Q. 解析をまたやってみたいですか?

「他の銘柄で、すでに解析を行っています。部署を越えて集まって話す機会も増えました。」
「着眼点リストを見ながら、ラボや実機を使って色々と試したりしています。おかげで思い込みなしで、すんなりと進めることができています。」
「研究所が、また難しい銘柄を作ってくれました。この銘柄も複雑で作り方が難しいのですが、今回の解析で得た知見をもとに、今後も高品質なものづくりに取り組みたいと思います。」
「製造データを取り出す作業は大変でしたが、解析プロジェクトは楽しかったです。面白かった。」

YOKOGAWAの解析エンジニア 真木智貴:

「住友精化様への解析ソリューションでは、販売推進のフェーズから実際の解析までを担当させていただきました。
解析によって効果が出せるかどうかは、始めてみないと分からない場合があります。ですので、お客様の中に改善しようとする強い意志と、リーダーシップがなければうまく進まないこともあります。その点で、上村工場長には当初から多くの時間を割いていただき、YOKOGAWAの活動をご理解いただき、さらにはさまざまな貴重な知見を持つ製造・技術・研究・業務の多くの優秀なスタッフの方々をアサインしていただけたことに感謝しています。

私は、住友精化様の中で“解析の文化”が浸透し、プロセス知見とデータ解析技術の融合を図っていくことで、品質やオペレーション効率の向上に貢献できるものと確信しています。本活動をきっかけに、解析プロジェクトチームの皆様が、解析に対するやりがい、改善の達成感をますます感じて、さらに活躍していただくことを願っております。」

解析プロジェクトチーム集合写真
後列    竹中様(業務室)、松浦様(機能性樹脂課)、真木(横河電機)、山口様(機能性樹脂課)、
    村上様(機能化学品研究所)
前列    遠藤様(技術室)、増井様(機能性樹脂課)、辰己様(技術室)

業種

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