概要
関西熱化学株式会社および日油株式会社によって1993年に設立された尼崎ユーティリティサービス株式会社は、3系列のガスタービンコジェネレーション発電システムを有し、両社の事業所やプラントに電気や蒸気などを供給しています。同社は1998年に日本で二番目の特定電気事業者として認可され、2000年代からは余剰電力の電力小売り事業者への販売も行っています。
また同社が製造する蒸気は、プロセス蒸気として日油株式会社をはじめとする複数の需要家へも供給されています。
プラントの重要なエネルギー源として用いられる蒸気の輸送配管には、蒸気の品質を維持し、設備を健全に保つためにスチームトラップと呼ばれる装置が付けられています。スチームトラップの不具合はエネルギーロスなどさまざまな問題を引き起こしますが、その状態の把握は容易ではありません。
尼崎ユーティリティサービスは、YOKOGAWAのスチームトラップ監視用Sushi Sensorを採用し、一時間毎のオンラインでの状態監視を可能にしました。これにより、スチームトラップからの蒸気漏れを検知するとともに、スチームトラップの劣化傾向を把握することができました。蒸気の漏れは損失です。尼崎ユーティリティサービスは、センサデータの活用により、エネルギー使用量やCO2排出量の削減、蒸気のさらなる安定供給を目指しています

お客様の課題とソリューション
蒸気配管のトラブルを防ぐスチームトラップ
多くのプラントの運転において、蒸気は重要なエネルギー源です。蒸気は、熱交換器などの製造設備に効率的に熱を与えるために使用され、発電プラントではタービンを回す動力源としても使用されています。
尼崎ユーティリティサービスは、ボイラーで軟水を熱して蒸気を製造し、蒸気配管で需要家へと供給しています。
蒸気配管中では、蒸気が凝縮してドレン(復水)が生じたり、蒸気と空気が混在して運ばれたりすることがあります。これらは温度や熱伝導効率の低下、配管腐食の原因となりますので、速やかに蒸気配管の外に排出する必要があります。特に残留したドレンはウォーターハンマという現象を引き起こし、配管等に深刻な損傷を与える場合があります。そのようなトラブルを防ぐため、プラントの蒸気配管にはスチームトラップと呼ばれる装置が取り付けられています。スチームトラップはドレンや空気を取り除き、品質の高い蒸気を安定・安全に供給するための重要な装置です。
容易に判別できないスチームトラップの不具合
蒸気の安定供給に欠かせないスチームトラップですが、その不具合や劣化状態を見極めるのは非常に難しく、たとえば、正常な動きとして高温のドレンを排出しているのか、それともスチームトラップ内部の傷や経年劣化で蒸気が漏れ出ているのかを、現場で判断するのは容易ではありません。劣化状況や交換の必要性は、熟練者による点検か、スチームトラップのメーカによる精密診断によって見定められます。
定期的に点検を行っていても、点検時以外に不具合が発生している可能性もあります。
蒸気のロスは経営損失
製造部の西阪 真也課長は、スチームトラップの状態を監視し、蒸気漏れの有無を把握するための良い方法を探していました。現場には、蒸気漏れの疑いがあるスチームトラップがありました。このスチームトラップに限らず、もし知らずに蒸気が漏れていたら、それは蒸気を捨てているのと同じことだからです。
しかし実際は、蒸気が減っていても、それが供給先でプロセスに使われているのか、蒸気が漏れてしまっているのか見極めるのは難しく、ボイラーを焚いて蒸気をどんどん製造するしかありません。蒸気の漏れを見過ごすということは、エネルギー消費量やCO2排出量をムダに増やしていることにほかなりません。カーボンニュートラルの観点からも大きな課題です。
さらに、西阪氏は言いました。「漏れは損失です。」
スチームトラップ監視用Sushi Sensor
同じ頃、YOKOGAWAは産業用IoT向け無線ソリューション Sushi Sensorシリーズの一つとして、新たに無線スチームトラップ監視デバイスを発売しました。この無線スチームトラップ監視デバイスは、一時間毎にスチームトラップの状態(正常・閉塞/冷温・蒸気漏れ)を検出します。
データは無線でゲートウェイを介して上位システムに送信されます。広域モニタリングシステムを用いたスチームトラップ監視パッケージにより、ウェブブラウザ等から容易にスチームトラップの状態や蒸気漏れによる損失予測金額を確認することができます。
YOKOGAWAの代理店である東京電機産業株式会社からSushi Sensorを紹介された西阪氏は、さっそくこれを試してみることにしました。

無線スチームトラップ監視デバイス。
配管部に容易に取り付けることができる

Sushi Sensorのシステム構成例
Sushi Sensorによるスチームトラップの監視
プラントにある二つのスチームトラップに、それぞれ無線スチームトラップ監視デバイスが取り付けられました。一つはかねてより異常が感じられていたスチームトラップに、もう一つは比較のために正常と思われる近傍のスチームトラップに取り付けられました。

現場に取り付けられたSushi Sensor
監視を始めて約一カ月、診断の結果として蒸気漏れを示すスパイクが現れました。蒸気漏れは一時的なもので、その後は正常状態になりました。ゴミ噛みなどによる一時的な蒸気漏れはよく見られる現象のため、引き続き様子を見ることにしました。二回ほど温度の低下が見られましたが、これはドレンの影響によるものではなく、近くで散水が行われた影響であると見られています。

Sushi Sensorによる監視(約一カ月)
さらに監視を続けていくと、スパイクが頻繁に現れるようになりました。時間経過とともに漏れの頻度が増加し、スチームトラップの劣化が明らかに進んでいることが分かりました。

Sushi Sensorによる監視(四カ月)
一方、正常と思われるスチームトラップでは、スパイクなど異常は検出されませんでした。

正常なスチームトラップの監視データ(約一カ月)
プラントでは、劣化したスチームトラップを交換することになりました。取り外される予定のスチームトラップは、特別にメーカである株式会社ミヤワキが回収して分解し、どのような劣化・不具合が起きていたのかを検証することになっています。これにより尼崎ユーティリティサービスでは、不具合が起こる要因(異物混入、摩耗、劣化状態など)を正確に把握し、再発防止策および最適な保全計画の検討に活用していくことを目指しています。
なお、ミヤワキの試算によると、このスチームトラップの異常に気付かなかった場合の損失は、年間で数十万円に及ぶとされています。
設備の状態を把握しながらの運転
無線スチームトラップ監視デバイスのデータは、ウェブブラウザで容易に確認することができるため、保全担当者のみならず運転員の方々までがデータを意識するようになりました。通常の運転業務を行う傍ら、可視化されたデータにも目を配るようになり、異常が認められた場合はすぐに関係者間で情報が共有されるようになりました。プラントではこれまでも些細な違和感・異常について積極的に情報共有がなされてきましたが、データによって設備の健全性に対する関心がさらに高まりました。
優先度に応じてSushi Sensorを取り付け
Sushi Sensorの効果を十分に確認できたことを受け、尼崎ユーティリティサービスはSushi Sensorの増設を行うことを決定しました。ミヤワキの精密診断を実施し、優先度の高いスチームトラップから順次センサを取り付けていくことになっています。
今後は無線スチームトラップ監視デバイスによる常時監視を行い、異常を検知した際にはミヤワキの精密診断を受けるという、コンディションベースの保全(CBM)を実現する環境が整いました。これにより、ムダなエネルギーロスを抑制し、今まで以上に効率的かつ安定的に蒸気を供給し続ける基盤が整いました。
お客様の声
Q. スチームトラップ監視用Sushi Sensorにご興味を持った背景について
「カーボンニュートラルの観点からも、私たちはエネルギー使用量やCO2排出量を削減しなければなりません。その取り組みの一つとして、スチームトラップからの蒸気の漏れを把握したいと考えていました。蒸気漏れはこれまでも気にはしていたのですが、検知する良い方法がありませんでした。日常的に点検を行っていますが、万が一漏れていても見分けがつかないのが正直なところです。よほどのベテランであれば分かるかも知れませんが、そこまでのノウハウはありませんでした。
しかも近年はエネルギーの原単位が急激に上がっています。蒸気の漏れは直接的な損失につながるので、良い方法がないか探していました。 そんななか、東京電機産業さんがスチームトラップ監視用のSushi Sensorを紹介してくれたのが始まりでした。」

Q. Sushi Sensorはどのように設置しましたか?
「スチームトラップの配管にクランプするだけなので、取り付けは非常に簡単でした。保温材を少しめくるぐらいで済みました。
Sushi Sensorからの無線データを受信するゲートウェイは、事務所の窓辺に設置しました。電波状態はとても良好でした。センサとゲートウェイは1km弱ほどの距離で、途中に建物があるのですが、まったく問題ありませんでした。」
Q. 今回のSushi Sensorのデータはいかがでしたか?
「今回データを取ってみた2台のスチームトラップのうち1台は、見るからに出ている蒸気が増えていると思っていたもので、もう1台は比較として正常と思われるものに取り付けました。蒸気の漏れが検知され、しかも不具合が進行していくのがしっかりと見えました。
これまで蒸気の漏れなどをデータで見ることはできませんでした。データで可視化されたというのは大きな変化です。 今後は、ミヤワキさんのスチームトラップの精密診断を受け、優先度の高いものからSushi Sensorを取り付けていくことになっています。」
Q. スチームトラップ監視パッケージもお使いいただきましたが、いかがでしたか?
「監視パッケージにより、ウェブブラウザを使って皆でデータを見ることができました。特に、現場の運転員たちが興味を持って見てくれるようになりました。私たちは皆、省エネに関心があります。収益性にも関心があります。運転成績が良く収益が上がればモチベーションにもつながります。そういう意味でもデータが見えるというのは重要なことです。
データをクラウドに置いて、自分のPCからいつでも見られるようにしたのも良かったと思っています。専用PCを使うようなシステムだと、結局面倒になって見なくなってしまいます。」
Q. 今後はデータをどのように活用していきたいですか?
「スチームトラップ監視用のSushi Sensorにも期待していますが、振動Sushi Sensorにも興味があります。これまでの“現場の勘”も大事なものではありますが、データを活用して仕事のやり方を変えていくのも良いですね。
データはPDCAに利用していきたいです。保全はデータありきですから。機械は100%ではないので、人の目も介しながら、次の改善をどうしていくかPDCAを回していきたいです。改善は終わりのない世界です。データを見て、その都度直していく。こつこつと積み重ねていきます。今後はデータの収集と分析を基盤として、継続的な改善、運転効率の向上、さらなる収益性の向上に取り組んでいきたいです。」
Q. 操業開始以来無災害を継続されていますが、秘訣はありますか?
「従業員数が約20名と少ないので、なんでも皆でやりますし、報連相(報告・連絡・相談)もきちんとやっていると思います。まめな人やきめ細やかな人が多く、何かあればことが大きくなる前にやるという風土はありますね。現場から『直した方がいいんじゃないか?』という声が上がると、すぐに対応が検討されます。新人研修や人財育成にも力を入れています。」
Q. YOKOGAWAへの期待・コメントはございますか?
「今回はいろいろと教えていただき、こんなこともできるんだと思うことが多くありました。丁寧に対応していただきました。情報もオープンで、取扱説明書もウェブサイトですぐに見られるのでありがたいです。
代理店の東京電機産業さんも、何かあったらすぐに対応していただけるのでとても助かっています。」

(左から)東京電機産業株式会社 田中氏、米澤氏、
尼崎ユーティリティサービス株式会社 西阪氏、
YOKOGAWA 下村氏、株式会社ミヤワキ 若杉氏
ソリューション紹介
株式会社ミヤワキとYOKOGAWAは、両社が有する技術、製品、およびノウハウを互いに活用し、エネルギーロス低減、保全効率化、設備監視の高度化等を実現したいお客様にソリューションをご提供しています。本ストーリーでご紹介したスチームトラップ監視用Sushi Sensorによる常時監視と、異常検出時のミヤワキによる精密診断を組み合わせることで、速やかにエネルギー使用量およびCO2排出量のムダや、コスト損失を可視化することが可能となります。カーボンニュートラルの実現に取り組むお客様に、ぜひご利用いただきたいソリューションです。
株式会社ミヤワキは、1933年(昭和8年)に創業した日本の蒸気用バルブの老舗メーカです。精密診断を行う「スチームトラップ診断管理アウトソーシング」では、スチームトラップの全数把握、台帳作成、良否判定、分析などを実施し、その結果をデータベース化します。さらに、スキルを持つ技術者が、取り付け箇所やプロセスに応じた適材適所のスチームトラップを提案するなど、お客様プラントにおける効率的で安定した蒸気システムの実現をお手伝いしています。
関連製品&ソリューション
-
無線スチームトラップ監視デバイス
本製品はIndustrial IoT(IIoT)向け無線スチームトラップ監視デバイスです。XS110A無線通信モジュールとXS822スチームトラップ監視モジュールを組み合わせて動作します。温度センサと音響センサでスチームトラップの正常・詰まり・蒸気漏れを検出し、無線で送信します。