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DNA損傷による細胞核内γH2AX顆粒形成の解析

はじめに

細胞にはDNAが損傷を受けた場合にそれを修復する機構が備わっています。DNAの損傷部位には、DNA修復にかかわる蛋白質による複合体が形成されます。この複合体に含まれる蛋白質を蛍光抗体などで標識することでDNA修復プロセスを可視化できる他、様々な刺激によるDNA損傷の程度を評価する指標ともなり、細胞周期やDNA修復の基礎研究、抗がん剤研究、放射線の生物影響、タバコ成分などの環境物質の遺伝毒性モニターといった分野での基本的な研究手法となっています。このアプリケーションノートでは、DNAの二本鎖の切断部位に局在するγH2AX(リン酸化ヒストンH2AX)を免疫染色し、CQ1を用いて観察・解析した結果を紹介します。γH2AXの集合は、免疫蛍光染色によって可視化すると核内の顆粒として検出できます。顆粒の数や蛍光量を定量的に解析するには、焦点面に存在している顆粒のみをクリアに検出でき、焦点から外れた顆粒からの蛍光は排除できる共焦点顕微鏡が適しています。本実験では過酸化水素(H2O2)投与によってDNAに与えた損傷と、DNA修復機構の阻害剤 Wortmanninの効果を定量的に評価することを試みました。

図1 共焦点画像でのγH2AX 顆粒の検出

図1 共焦点画像でのγH2AX 顆粒の検出
(A) 過酸化水素を添加したサンプル
  右は左の広視野画像内に矢印で示した細胞の拡大
      核(Hoechst33342)とγH2AX顆粒(Alexa Fluor 488)が染色されている
(B) 過酸化水素なしのサンプル
(C) Wortmannin 処理後に過酸化水素処理したサンプル

図2 過酸化水素によるγH2AX顆粒生成とWortmanninによる顆粒形成阻害
図2 過酸化水素によるγH2AX顆粒生成とWortmanninによる顆粒形成阻害
CQ1ソフトウェアのテンプレートに含まれる「顆粒解析」を使用して、各ウェル(条件ごとにn= 5ウェル)でγH2AX顆粒の一細胞あたり平均数、顆粒の平均サイズおよび一細胞あたりの総蛍光量を算出
いずれも過酸化水素によって増加し、Wortmanninによって濃度依存的に減少していることが認められる
エラーバーは標準誤差

 

実験手順

  • HeLa細胞を96ウェルプレート(Greiner#655896)に10,000 cells/wellで播種し、一昼夜培養
  • Wortmanninを添加(最終濃度: 0~25 μM、10分、室温)
  • 過酸化水素を添加(最終濃度: 1 mM、45分、37℃)
  • ホルムアルデヒドで固定
  • 核をHoechst33342で染色し、γH2AXをウサギ抗γH2AX抗体(Enzo, No. ADI-905-771-100)とAlexa Fluor 488 標識二次抗体を用いて染色
  • CQ1で40倍対物レンズを用いて1 ウェルあたり25視野の画像を取得し、顆粒を検出

 

結果と考察

CQ1で撮影した共焦点画像の解析から、過酸化水素の添加によってγH2AXの顆粒の数、サイズ、総蛍光量ともに増加することが確認されました。また、過酸化水素によって増加したこれらのパラメータは、いずれもDNA修復機構を阻害するWortmanninによって濃度依存的に減少しました。DNA二本鎖が切断されると、その部位にDNA修復に関与する様々な蛋白質が集合してきます。この過程で、蛋白質リン酸化酵素によるH2AXのリン酸化が損傷部位周辺に広がっていくと考えられていますが、このようなγH2AX顆粒の生成機序と今回の実験結果はよく一致すると考えられます。
以上のように、CQ1を用いてγH2AX顆粒を検出し、定量的に解析することができました。

*γH2AX
DNAの高次の折り畳み構造のコアとなるヒストンタンパク群の一員のH2AXがリン酸基修飾を受けたもの。DNAの二重らせん構造の切断部位でのDNA修復反応に関与する。

 


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