横河電機株式会社
横河ソリューションサービス株式会社

【ENEOSマテリアル/横河電機】世界初 強化学習AIが化学プラントに正式採用

2023年3月30日発表

株式会社ENEOSマテリアル
横河電機株式会社

 株式会社ENEOSマテリアル(本社:東京都港区 代表取締役社長:平野 勇人 以下、ENEOSマテリアル)と横河電機株式会社(本社:東京都武蔵野市 代表取締役社長:奈良 寿 以下、横河電機)は、共同実証実験(横河電機とJSR株式会社とで行っていた共同実証実験を2022年4月1日にENEOSマテリアルが承継。以下、本実証実験)を継続して行い、AIが約1年にわたり、化学プラントを高いパフォーマンスで自律制御できることを確認し、ENEOSマテリアルが自律制御AI※1(強化学習AI アルゴリズム FKDPP:Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)を正式採用することに合意いたしましたのでお知らせします。なお、強化学習AIがプラントを直接制御するものとして正式に採用されるのは世界初となります※2

当該のENEOSマテリアル化学プラント
当該のENEOSマテリアル化学プラント
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 本実証実験は、2022年1月17日から2月21日までの35日間(840時間)連続で、既存の制御手法(PID制御・APC)が適用できず、運転員が制御で使用するバルブの操作量を自ら考えて入力していた、手動制御のみでしか対応できなかった箇所をAIが制御できることを確認※3した後、プラントの定期修理を経て、現在まで継続して行っているものです。蒸留塔の留出物の品質や液面レベルを適切な状態に保ち、かつ排熱を熱源として最大限に活用するという複雑な条件を満たす制御をAIが行い、品質の安定化、高収量、省エネを実現しました。

確認できたことは以下の4点です。

  1. 約1年間の安定稼働
    外気温変化(外乱)の影響を受けやすい制御箇所に対し、自律制御AIにより、年間で外気温が40度ほど変化する中、夏や冬を含めて安定したパフォーマンスで、液面制御と排熱利用の最大化を実現することができた。稼働中は一度もトラブルなく、安定的に稼働し、厳しい出荷基準を満たした良品のみを生産した。
  2. 環境負荷等を低減
    自律制御AIによって、規格外品が発生することによる燃料や人件費等の損失、時間的損失がなくなるとともに、原料を効率的に製品にできるようになった。出荷基準を満たす良品を生産しながら、省エネを両立し、従来の手動制御に比べ約40%の蒸気使用量とCO2排出量を削減※4できた。
  3. 人への負担を削減し安全性を向上
    自律制御AIの導入により運転員が24時間体制で頻繁に手動制御する必要がなくなり、作業負荷のみならず人間への心的な負担も減り、誤操作も防ぐこととなり、より安全性が高まった。
  4. ロバスト(頑健)なAI制御モデル
    原料組成のばらつきや、系内の汚れの蓄積や定期修理による清掃によるプラントの状態変化などがあっても、AI制御モデルがそのまま適用でき、安定して有効に稼働することが確認できた。

約1年間の実証実験で確認できた効果
約1年間の実証実験で確認できた効果
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 ENEOSマテリアルは、約1年間の実証により、自律制御AIが限られた状況だけでなく、夏冬を含めて安定した性能で最適運転を実現するロバスト(頑健)なシステムであることを見出しました。他工程、他プラントへの応用を検討し、自律化の範囲拡大を通じて、さらなる生産性の向上、省エネルギー化に努めていきます。

 横河電機は、本年2月27日、プラントの自律化を実現する製品として自律制御AIをエッジコントローラで利用できるサービスを世界で初めて※5開始※6しました。これに加えて、本件同様のプラント操業の自律化を目指すお客様に、制御箇所の課題抽出から最適な制御方法の検討とその費用対効果の試算、安全確保、実装、保守・運営までを含めたコンサルティングサービスをグローバルで提供します。

 両社は、今後も協力して、プラントでの制御や状態基準保全へのAI活用も含めたDXを広く検討してまいります。

各社・専門家からのコメント

ENEOSマテリアル 生産技術本部長 桝谷 昌隆
保安人材の高齢化・不足感などの石油化学業界を取り巻く厳しい環境変化の中、マニュアル操作が求められる工程をAIによって自律制御できる実績を示せたことをうれしく思います。運転員オペレーターの負荷が軽減されただけでなく、約1年間の連続稼働により、定期修理前後や季節変動にも影響されずに安定して稼働し、省エネ・GHG削減効果を示すことができました。今後も生産のスマート化により安全・安定操業と脱炭素化、競争力強化に取り組んでいきます。

奈良先端科学技術大学院大学 教授 松原 崇充
強化学習は、報酬関数の設計が肝になります。プロセス産業における制御の知見が報酬関数に精緻に反映されることによって、四季を通じて安定的に稼働できる信頼性と妥当性の高いAI制御モデルが生成されたと言えます。ある程度の定期修理後にもそのまま適用できたと確認できたことは、AI制御モデルのロバストさを示唆しています。複雑な条件を取り持つ新しい制御技術であるFKDPPは、世界の産業の発展に広く貢献していくでしょう。

横河電機 執行役員 横河プロダクト本部長 長谷川 健司
世界に類を見ない自律化の取り組みに、お客様とともに挑戦できたことに感謝いたします。実プラントでは物理的、化学的な事象が複雑に影響する中での制御の難しさから、今回のように、熟練運転員が介入しなければならない箇所が数多く残っています。当社は製品とコンサルティングの両軸でこの領域にて自律制御AIを展開し、お客様と共に脱炭素化、DX、自律化を進めていきます。

※1 2023年3月 に市場調査会社IoT Analytics(IoTアナリティクス)社が行った公開情報の調査結果に基づく。
※2 自律制御AIとは、「自らが最適な制御方法を導き出し、経験していない状況でもある程度自律的に対応できるロバスト性の高さを持つもの」と横河電機では定義しています。
※3 【横河電機/JSR】世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御 ~品質、収量、省エネ、降雨降雪などの急な気温変化に配慮した次世代の制御方式を実用化~
※4 本実証実験で自律制御AIを適用した液面の制御に従来使用されていた蒸気量ならびに同蒸気製造に係るCO2排出量に対する削減率。
※5 エッジコントローラ向けの強化学習AI商用サービスとして。2023年3月 に市場調査会社IoT Analytics(IoTアナリティクス)社が行った公開情報の調査結果に基づく。
※6 【エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスを提供開始~最適な制御で省エネ、生産性の向上に貢献~

以上

本文中および別紙で使用されている会社名、団体名、商品名、サービス名およびロゴなどは、株式会社ENEOSマテリアル、横河電機株式会社、各社および各団体の登録商標または商標です。

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