横河電機株式会社
横河ソリューションサービス株式会社

エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスを提供開始

2023年2月27日発表

 横河電機株式会社(本社:東京都武蔵野市 代表取締役社長:奈良 寿)は、OpreX™ Realtime OS-based Machine Controllers(e-RT3) のオプションサービスとして、装置を制御するエッジコントローラ上で自律制御AI(強化学習AI、アルゴリズムFactorial Kernel Dynamic Policy Programming 以下、FKDPP)を活用できるサービスを開始しますのでお知らせします。本サービスは、制御箇所に応じて、パッケージあるいは導入支援のコンサルティング、トレーニングプログラムを提供するものです。パッケージに関しては国内および海外において、コンサルティングサービス、トレーニングプログラムについては国内から順次海外に提供していきます。

エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスのイメージ
エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスのイメージ
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開発の背景

 実プラントでは物理的、化学的な事象が複雑に影響する中での制御の難しさから、熟練運転員が介入しなければならない制御箇所が数多く残っています。またそのような箇所は品質や収益に直結するような、難しい制御であることが少なくありません。既存の制御技術には、PID制御※1と高度制御(Advanced Process Control、以下APC)※2があります。複雑な制御をPID制御やAPCを使って行うには、長い時間と多くの労力をかけた調整が必要となる場合があります。また、PID制御やAPCが適用できず、運転員が制御で使用する操作量を自ら考えて入力する手動制御しかできていない箇所もあります。このような背景から、自律制御AIを活用して人手に頼らずに複雑な制御を実現したいという要求があります。

製品・サービスの特長

 自律制御AI(FKDPP)による制御は、PID制御、APCとは異なる新しい制御技術です。2022年には、このAIを利用し、制御の状態を乱す大きな「外的要因(外乱)」もある中、世界で初めて、化学プラントで既存の制御手法が適応できず、「手動制御のみでしか対応できなかった箇所」を35日間、自律制御することに成功しました※3

 本サービスはこの自律制御AIでAI制御モデルを作成し、エッジコントローラに実装してご活用いただくものです。以下のような特長と導入メリットがあります。

特長

  1. AIの高度な専門知識なしに、お客様側で制御モデルを生成してコントローラに組み込めるよう、使いやすさを追求しています。
  2. 既存の設備を活かしながら部分的にエッジコントローラを後付けすることで自律制御AIが適用できます。
  3. 制御周期は0.01秒から対応しており、高速性が求められる装置の制御にも対応可能です。

自律制御AIの導入メリット

  1. 手動制御しかできなかった箇所の自律化
     特に、PIDやAPCが組めなかった制御箇所に対して自律制御AIを適用させることで自律化と最適制御を同時に実現できます。外乱に左右されにくい安定した制御ができます。
  2. オーバーシュートを抑制
     制御対象ごとに効果は異なりますが、設定値を上回ってしまうオーバーシュートという状態を抑えます。例えば、オーバーシュートの不要な加熱などによるヒーターへの負荷を低減するため、装置の寿命を延ばすことなどが見込まれます。
  3. 整定時間を大幅に短縮
     PID制御に比べ、整定時間を大幅に短くするため、省エネと生産性の向上に貢献します。
  4. 相反する複雑な条件を満たすことも可能
     制御箇所によりますが、例えば品質を維持しながらエネルギーの使用量を削減するといったような複雑な条件を満たすことも可能です。

 本サービスは、下記のような実証を経て、エッジコントローラで自律制御AIを広く適用できることを確認し、このたび製品化しました。

実験用炉の加熱制御

 オートチューニングしたPID制御と比較して、AI自律制御は、オーバーシュートを抑制しながら、整定時間を約65%(約30分が約10分に)短縮できることを確認しました。

オートチューニングしたPID制御とAI自律制御を比較した例
オートチューニングしたPID制御とAI自律制御を比較した例
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エッジコントローラ e-RT3
エッジコントローラ e-RT3
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 本システムの利用にあたっては、別売のエッジコントローラ、自律制御AIを用いた学習サービスのお申し込み、AI制御モデルを実装するためのエッジコントローラ用ソフトウェアパッケージ、AI制御モデルを実行するためのライセンスが必要です。用途に応じて、導入を支援するトレーニングプログラム、関連するコンサルティングサービス、エンジニアリング等をご提供します。

 FKDPPを共同で開発した、奈良先端科学技術大学院大学 教授 松原 崇充氏は次のように述べています。「FKDPPは強化学習の課題だった膨大な学習回数を少なく現実的にしたことで、今回の商用化につながったとも言えます。これまでの横河電機のさまざまな実証でFKDPPの価値と実用性が確認できました。製造業向け制御システム製品として強化学習を商用化した事例は他に類を見ません。FKDPPが産業に新たな価値をもたらすことを期待しています」。

 横河電機執行役員 横河プロダクト本部長 長谷川 健司は次のように述べています。「どのように制御するかは製品の品質やお客様の収益に直結する重要な部分ですが、ベテランのノウハウが欠かせませんでした。自律制御AI(FKDPP)は破壊的な技術革新であり、従来の制御でお困りのお客様の課題解決に新たな方法での解を提供するものです。また将来的には、経営戦略に応じて柔軟な制御を行うという新しい分野を切り開くものとなります。お客様への価値提供を通じて地球環境の負荷を最小限にしながら産業の持続的発展に寄与し、IA2IA(Industrial Automation to Industrial Autonomy)の推進により産業の自律化をリードしていきます」。

※1 PID制御:1922年にNicolas Minorskyが発表したプロセス産業やファクトリーオートメーションの一部の基盤制御技術で、流量、温度、レベル、圧力、成分などの制御で幅広く一般的に使われます。現在の値と設定値との偏差に応じたP(比例)、I(積分)、D(微分)の各動作の計算結果を足し合わせた操作量で、「目標値」に向けて制御するものです。特徴から、設定値を上回ってしまうオーバーシュートという状態になることがあり、一方でオーバーシュートを避けると整定までに時間がかかるという課題がありました。
※2 APC(高度制御):プロセスの応答を予測できる数学的なモデルを用いて、生産性や品質をより向上させるための設定値をリアルタイムにPID制御ループに与えるもので、制御性を向上させるだけでなく、増産や省力化、省エネルギーを目的とした制御にも適用しやすいという特長があります。高度制御を導入すると、プロセス値のばらつきが小さくなり、運転限界(最もパフォーマンスが発揮できる状態)に近づけることが可能になります。しかしながら、非線形の化学反応や、設備自体の変化などには対応が難しいという制約がありました。
※3 【横河電機/JSR】AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御 ~品質、収量、省エネ、降雨降雪などの急な気温変化に配慮した次世代の制御方式を実用化~

主な市場

  • 資源・エネルギー(石油、化学、天然ガス、電力、再生可能エネルギーなど)
  • 素材(繊維、紙パルプ、塗料など)
  • エレクトロニクス機器(半導体製造装置など)
  • 食品・農業
  • 製薬
  • 上下水道 など

用途

温度、圧力、水位/流量制御など

OpreX とは

 OpreXとは、制御事業の包括的ブランドです。お客様との価値共創を通じて培ってきたYOKOGAWAのテクノロジーとソリューションの卓越性を表し、YOKOGAWAの全ての制御関連製品、サービスとソリューションを包含しています。OpreX Transformation、OpreX Control 、OpreX Measurement 、OpreX Execution 、OpreX Lifecycle の5つのカテゴリーから成り立ち、「Realtime OS-based Machine Controllers」はOpreX Controlの製品・ソリューション群の一つであるOpreX Control Devicesに属しています。OpreX Control Devicesは、生産設備高信頼化の要である堅牢で操作性に優れたコントローラ群を意味します。

以上

本文中で使用されている会社名、団体名、商品名、サービス名およびロゴ等は、横河電機株式会社、各社および各団体の登録商標または商標です。

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