2019年9月20日発表
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立研究開発法人産業技術総合研究所
横河電機株式会社
地熱エンジニアリング株式会社
西日本技術開発株式会社
NEDOは地熱発電技術の研究開発事業に取り組んでおり、今般、NEDOと産業技術総合研究所、横河電機(株)(本社:東京都武蔵野市 代表取締役社長:奈良 寿)、地熱エンジニアリング(株)、西日本技術開発(株)は、同事業で開発中の温泉モニタリングシステムの実証試験を2019年10月中旬から本格的に開始します。
本システムは、温泉に設置したモニタリング装置を通じて温泉水の流量や温度などの変動データを取得し、それをクラウド上の人工知能(AI)で分析することで、地熱資源の連続監視・適正管理・有効利用を可能にします。また、連続監視ができるようになるため、地熱発電が温泉に与える影響に関する科学的データが得られ、地熱発電開発を検討する際に、そのデータに基づいた温泉事業者との対話が可能となります。
今回の実証試験では、大分県別府市の温泉地域に本システムを導入し、2020年度末まで導入効果などを検証します。実証を通じて、温泉地域でも導入可能な大規模温泉モニタリングシステムの実現を目指すとともに、地熱発電導入の大きな課題となっている温泉地域との合意形成の円滑化を図り、温泉との共生による地熱発電の導入拡大に貢献します。
図1 温泉モニタリング装置
図2 温泉モニタリング装置設置例
1.概要
地熱発電の導入拡大の促進に向けた重要課題の一つに、「地熱発電と温泉の共生」があります。温泉事業者の多くは地熱発電に起因する温泉湧出量の減少や泉質の変化に不安を抱いています。その不安を解消するための一つの手段として、地熱発電所稼働前から、継続的に温泉の泉質や湧出量などの変動に関する正確なデータを取得し、万が一温泉に変動が生じた場合に地熱発電との因果関係を議論できる体制を構築しておくことが考えられます。しかし現在は、一定期間ごとや異常時のみのスポット的なモニタリングでしかデータを取得できておらず、気象条件や人為的行為などの影響を受け、短期的、長期的に変動する温泉と地熱発電の因果関係を科学的に議論することが困難となっていました。
一方、温泉を集中管理している温泉地域では、温泉の給配湯管理のために従来型の給湯システムを導入していますが、多数の源泉と温泉地点が複雑な配管構成で相互に繋がっており、必ずしも温泉を含む地熱資源が適切に管理、利用されていない地域も存在します。従来型のシステムでは、中央管理室で各地点のデータを確認できますが、バルブを操作する現場では、ほかの離れた地点の状態やアラーム有無の情報の確認などができず、給湯管理に多くの労力と多額の費用を費やしていました。また、現場でのバルブなどの開度調整は熟練者の経験や勘に頼っており、ノウハウ継承の課題を抱えていたり、余っている温泉資源を有効利用できていないなどの問題もありました。
そこで、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、地熱発電技術の研究開発事業※1の中で、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、横河電機株式会社、地熱エンジニアリング株式会社と共同で、2017年度に、温泉水の温度や流量、電気伝導率などの泉質を連続測定し、取得したデータをクラウド上で閲覧できる温泉モニタリング装置(図1、下表)を開発しました。さらに、2018年度より、NEDOと産総研、横河電機(株)、地熱エンジニアリング(株)、西日本技術開発株式会社で、地熱発電が温泉に与える影響の定量評価が可能なシステム(Ⅰ)、並びに温泉モニタリング装置で得たデータをクラウド上の人工知能(AI)技術を介して分析することで、温泉地域における地熱資源の連続監視・適正管理・利用を可能にするシステム(Ⅱ)(図3)を開発しています。
そして今般、上記システム(Ⅱ)の実証試験を10月中旬から開始します。大分県別府市の温泉地域に本システムを導入し、2020年度末まで導入効果などを検証します。本実証を通じて、温泉地域での大規模導入が可能なシステムの実現を目指すとともに、地熱発電導入の大きな課題となっている温泉地域との合意形成の円滑化を図り、温泉との共生による地熱発電の導入拡大に貢献します。
外形 | 300 mm(H)×200 mm(W)×200 mm(D)以下 |
重量 | 5 kg以下(配管インターフェース25A) |
流量測定能力 | 範囲 10~100 L/min、分解能 0.1 L/min. |
温度測定能力 | 範囲 0~100 ℃、分解能 0.1 ℃ |
電気伝導率 | 1~50 mS/cm |
プラグインセンサー | 水位計、Cl濃度センサー、気温計、圧力センサーを接続可能 |
サンプリングレート | 1 sample/min. |
データ通信 | 3G回線、LTE回線、ISDN回線、NTT光回線、LPWAを使ったデータ転送が可能 |
配管インターフェース | 温泉地での代表的な配管への接続が可能 |
2.実証試験内容
本実証は、別府市の協力のもと、2020年度末まで実施し、当該技術導入による効果を検証することで、温泉地で大規模導入が可能なシステムの実現を目指します。今回の実証試験場所である別府市では、従来型の大規模給湯システムで源泉管理を行っており、温泉管理の効率向上、余剰となっている温泉資源の把握、および有効利用が課題となっています。
NEDOと産総研、横河電機(株)、地熱エンジニアリング(株)、西日本技術開発(株)は、今回の実証試験開始にあたり、2018年度に、別府市が管理する温泉の調査を行い、システム構成モデル(図4)を構築したほか、10カ所以上に設置した温泉モニタリング装置(図2)からの膨大な計測データの収集、可視化が可能なクラウドシステム(図5)を開発しています。
実証試験の主な取り組みと検証内容は、以下の通りです。
- クラウドシステム上で開発中の強化学習などを用いたAI分析を行うことで、最適な温泉水供給方法を提案し、バルブ制御のフィードバック量を導出します。これにより、従来の温泉管理者の点検やバルブ操作に要する作業時間を現状と比べて、目標の20%程度低減可能かを検証します。
- 余剰資源の利用手段として、温度差発電※2や小規模な温泉バイナリー発電※3などがありますが、本実証試験では、温泉モニタリング装置の自立電源用に検討していた温度差発電を適用します。余剰の温泉水が流れる配管に給湯と外気の温度差で発電する温度差発電ユニットを設置し、ユニットが設計通りの出力で発電し、電力供給が可能かを検証します。
なお、別府市では発電で得られた電力を公共サービスに活用します。
図3 温泉資源の遠隔監視、適正管理、余剰資源の有効利用のためシステムのイメージ
図4 別府市の温泉管理システム画面
図5 クラウドシステム画面
3.今後の予定
今後、実証を通じて、温泉地域でも導入可能な大規模な温泉モニタリングシステム(Ⅱ)の実現を目指します。また、本事業では、温泉モニタリング装置で取得したデータに対して気象条件や人為的行為などの影響因子の抽出と除去を行うAI技術を開発中です。この技術を用いて、地熱発電による地熱資源の採取が温泉に与える影響を定量評価するためのシステム(Ⅰ)も開発し、2019年度中に実証試験を開始する予定です。
【注釈】
※1 地熱発電技術の研究開発事業
事業名:地熱発電技術研究開発
事業期間:2013~2020年度
事業予算:約87億円(2013~2020年度)※2020年度の予算は予定
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100066.html
※2 温度差発電
温泉配管内の温熱と外気温との温度差を利用し、熱電変換素子のゼーベック効果により発電させる発電方式。
※3 温泉バイナリー発電
温泉水のように100℃以下の熱水を用いて、水より沸騰温度が低い媒体(ペンタンやアンモニアなど)を加熱し、その媒体によって作られた高圧の蒸気によりタービンを回して発電させる発電方式。
以上
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