横河電機株式会社
横河ソリューションサービス株式会社

カーボンニュートラルの実現に向けて | 座談会

カーボンニュートラルの実現に向けて

温室効果ガスの増加による地球温暖化は、地球規模での気候変動を引き起こしています。具体的な対策が喫緊の課題となる中、日本では2020年10月、菅総理の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことが宣言されました。欧米においても2050年、中国は2060年の実現を目指しています。

YOKOGAWAも2050年のカーボンニュートラルを見据え、2030年までのサステナビリティ中期目標を設定し、取り組みを進めています。今回は「カーボンニュートラルの実現に向けて」をテーマに、イノベーションセンターの貢献と展望について4名に聞きました。

インタビュイー写真_CN1

カーボンニュートラルに向けた活動のトレンドは電化と水素がキー

――まず、藤田さんにお伺いしますが、カーボンニュートラルに向けた活動には、今どういうトレンドがあるのでしょうか。

藤田:
カーボンニュートラルの取り組みには、CO2の排出抑制と、排出されたCO2再利用の流れがあります。CO2の排出抑制では、電化が主流です。例えば、自動車業界では燃費を改善するために、いろいろな改良・改善が重ねられてきましたが、さらなる大幅な削減をするために、電化、つまり、これまで熱エネルギーを使っていたところを電気に変えていく方向に進んでいます。プロセス産業の分野でも、ナフサクラッカーという装置を例にとると、現在は大量の熱エネルギーを使っていますが、それを電化できないかという取り組みがコンソーシアムとして行われ始めています。また、多くの会社は、使用する電気を、よりクリーンな再生可能エネルギーで賄おうとしています。

CO2再利用のほうでキーとなるのは、水素です。以前、内閣府が設置した「ボトルネック課題研究会」で、CO2再利用の課題とその解決策の検討が行われました。その結論は簡単に言うと、CO2に水素を合わせれば、燃料である炭化水素に戻せるので、水素があればCO2を再利用できる、というものでした。こうした電化、再生可能エネルギーや水素などがつながり、各国でさまざまな取り組みが行われているのが今のトレンドだと思います。

インタビュイー写真_CN2

制御と監視による電池の状態診断をビジネス化する

――電気は“貯める”というところがネックになると思います。蓄電池活用EMSの研究をされている吉武さんから、その難しさや可能性についてお話いただけますか。

吉武:
電化といっても、ここに火力発電によって生み出された電気を使っては、CO2排出削減につながりません。そこで再生可能エネルギーが急速に普及しつつあります。使いたい人が使いたいときにオンデマンドで再生可能エネルギーを使えるようにすることが理想です。

一方で、電力は供給と需要のバランスがとれた状態にしなければなりません。2018年の北海道地震で、北海道電力がブラックアウト(全域停電)を起こしたのは、電力の需給のバランスが崩れたことが原因でした。このような状態を緩和するのが、蓄電池だと考えられています。蓄電池は、電気を貯める機器であり、発電はしません。電気が足りないときには放電でき、余ったときには充電できるという働きをするものですが、適切なタイミングで充放電ができないと、社会に対して大変な損失を与えてしまいます。そこで必要になるのが、蓄電池の正確な残量把握と充放電制御です。需要予測なども絡めながら、数時間から1日オーダーで蓄電池の安定した充放電オペレーションを行うのです。

これらを実現しているのが、イノベーションセンターで開発した電池の状態診断です。充電量、満充電容量といった電池の状態を、充放電オペレーションをしながら正確にモニターするというものです。これを今、横河ソリューションサービスで事業化しようとしています。彼らはDERMS(Distributed Energy Resource Management System)という分散型のエネルギーマネージメントシステムとして、いろいろな発電リソースを最適にオペレーションするシステムの提案を行っていますが、その中に蓄電池の制御も含まれています。

先ほども言いましたように、電池は電気を貯めるものです。物質の変換がないため、ほとんどロスはありません。しかし、体積・重量エネルギー密度となると、水素等にエネルギー物質化してエネルギーを保有するほうが圧倒的に高密度になります。電池では蓄えられないぐらいの余剰が出てきたときに登場するエネルギーの水素化についても、YOKOGAWAのイノベーションセンターにできることがあるのではないかと思います。

インタビュイー写真_CN3

YOKOGAWAが取り組むべき水素ビジネスの課題

――これから水素利用が増えていくと思うのですが、水素ビジネスの課題や展望について、藤田さんのお考えを教えてください。

藤田:
水素に関しては、どちらかというと、その製造にビジネスチャンスがあるように思います。オイル&ガスが主流だった海外でも今では水素の重要性が高まっています。YOKOGAWAは海外ビジネスが7割を占めるような会社ですから、必然的に水素ビジネスを考えなければならないわけです。しかし、水素に関するYOKOGAWAの課題は、水素製造のノウハウが全くないこと、そしてオペレーションのノウハウもあまりないことです。もちろん再生可能エネルギーのノウハウもあまりありません。そういった中では、先ほど吉武さんが話された電池の監視を含めて、機器をしっかり管理することが重要になります。再生可能エネルギーを生み出す太陽光パネルや、風車などはすべて監視とメンテナンスが必要ですが、同様に、水素のキーコンポーネントである水の電気分解装置もしっかりと監視しなければなりません。新しいタイプの水電解装置は燃料電池と同じ作りで耐久性が問題視されており、年2%劣化するとも言われていますので、劣化の監視は必須です。劣化の監視は、効率の評価や、どのスタックをどういうタイミングでリプレースするかという判断基準にもなりますし、水素ビジネスの中でまずはYOKOGAWAが取り組まなければならない事ではないかと思います。

――YOKOGAWAの中でも特にイノベーションセンターとして取り組んでいきたいことはありますか?

藤田:
再生可能エネルギーと水素の製造、それから水素のストレージの最適化ですね。蓄電池と同じように、水素のストレージも監視しなければなりません。あとはそれをどういうタイミングで誰に供給するか、というサプライチェーンの最適化にも取り組めるのではないかと思います。

――カーボンニュートラルに関連したビジネス化の検討をされている川野さんの意見をお聞かせいただけますか。

川野:
CO2を削減する、あるいは排出させないための策として、CO2と水素を組み合わせてメタンを合成するメタネーションという技術が登場します。一般的には化学触媒によって大量のCO2と水素からメタンを作る試みが主流です。この触媒反応を進めるためには熱源が必要になるため、そこにエネルギーがかかってしまう可能性があります。そこで、温度とエネルギーをかけない方法として、イノベーションセンターでは微生物に着目し、メタン生成菌という微生物を使ってCO2と水素を反応させ、メタンを作ることに取り組んでいます。

インタビュイー写真_CN4

微生物触媒によるメタネーションの可能性

――エネルギーを作るためにエネルギーを使ってしまってはパフォーマンスが悪いので、微生物の働きを利用するのですね。

川野:
そうです。反応させるときに発生するCO2の量が多くなるのでは、そもそもやらなくていいということになってしまうので、仮に発生したとしても、それを極力抑えられるやり方が良いのではないかと考えています。

――エネルギー効率という点では微生物が優れているということなのですが、微生物を利用するデメリットもあるのでしょうか。

川野:
微生物を使う場合、化学触媒のようにガスを通すだけというわけにはいかず、微生物を育てる環境を作る必要があります。微生物を育てるには培養液がどれだけ必要になってくるかを考え、それを貯めるタンクや培養する反応容器も用意しなければなりません。それらを大きくするとメタン生成の効率が落ちてしまうので、あまり巨大にはできないだろうと考えています。処理できる量がある程度制限されてしまうという点が、微生物を触媒とする場合と、化学触媒の場合の違いになるのではないかと思います。

――微生物を利用するメタネーションについて、YOKOGAWA以外の知見も取り入れているのでしょうか。

川野:
今は社外の大学と一緒に取り組んでいます。メタン生成の周辺には未着手の部分がまだまだ多いので、すでに他社や外部の機関が先行している技術があれば、それを積極的に活用したいと考えます。自社で長いこと時間をかけてやっていると、目標達成には間に合わなくなってしまうので、早くできるところは社外を巻き込んだオープンイノベーションが必要になってくると思います。

――オープンイノベーションにより新しい技術や新しい手法を短期間で吸収することで、研究開発をより迅速に進められるということですね。では、奥田さんが担当されているオープンイノベーション活動についてお話いただけますか。

奥田:
エネルギー利用には唯一の最適解というものはなく、蓄電池も水素も、そのエネルギーを使う場所、使う人、品質に対する要望に応じて、供給の形が違ってきます。YOKOGAWAがどんなにいい技術を持っていたとしても、社会実装されるためには、サプライチェーンの上下のつながりや市場の事情を考えて、お客様の立場に立って提案し、供給していかなければいけないので、そういう意味でもオープンイノベーションは必要になってくると思います。

――YOKOGAWAの技術を市場に提供していくのですね。

奥田:
私たちイノベーションセンターで作った技術をキーにして、「その技術がないとこのサプライチェーンは成り立たない」というようなビジネスを展開していくのが理想です。単に会社を買ってきて、そこに儲けさせるというものではなく、外部の技術や知見を有機的に取り入れるオープンイノベーションで社会を変えていくというスタンスで、私たちYOKOGAWAのイノベーションセンターから発信することが必要だと思います。

――奥田さんはYOKOGAWA以外のいろいろな業種をご存知ですが、そんな奥田さんならではの視点というものはありますか。

奥田:
コンサルタントとして「環境」という一つの軸でいろいろな業種を見てきました。その中で感じたのは、多くの業種でビジネスモデルのイナーシャ(慣性)が大きいということです。カーボンニュートラルという社会の転換となる大きなお題に向かって動くには、業種ごとの商習慣や業種間の隔たりを取り払っていかなければ実現できないと思います。YOKOGAWAの技術を取っ掛かりにサプライチェーンの形を変えていく、YOKOGAWAを起点にお客さん同士を繋げるなど、自身を軸にしながら社会を転換するような提案をしていく。そんな思いを共にする研究者の方々をアシストすることも積極的に仕掛けていきたいと思っています。

インタビュイー写真_CN5

――カーボンニュートラルの方向に進むことは、YOKOGAWA単独ではなく、社会全体の、しかも全世界での取り組みです。その明るい未来に向けて、自分たちは何ができるのか、みんなで協力したら何ができるのかという問いに前向きな答えはあるでしょうか。

奥田:
残念ながら日本は欧州に後れを取って、やらされているという感じがあります。それは、何をしたらいいのかがわからない人が多いからだと思います。水素や蓄電池、メタネーションも含めて、いろんな技術を総動員して初めてカーボンニュートラルが成り立つということはわかっているし、世界全体と国別ぐらいの粒度での青写真はあり、そこに向かえばいいことはわかっている。でも、自分たちの業種は、部門は、製品は、となるとわからなくなってしまう。そこで、イノベーションに関わる私達こそが、いち早く社会のニーズに気付いて提案をし、社内だけではなく社外にも仲間を作って周囲を引っ張っていかなければならないと思っています。

電池のリユース/リサイクルはYOKOGAWAの測る技術に対する期待を高める

――10年前、20年前と今では状況は変わってきていると思うのですが、実際に横河ソリューションサービスでのビジネスに関わっていらっしゃる吉武さんから見て、今よりも良い未来はもっと早くやって来そうですか。

吉武:
まず蓄電池については、日々進化しています。例えば、携帯電話や電気自動車(EV)に使われている電池や、日常使われているリチウムイオン電池を、次世代の全固体電池に変える動きがあります。全固体電池が実用化されると安全性が飛躍的に上がり、エネルギー密度も上がるなどして、EVの走行距離がガソリン車並みになり、充電時間もガソリン給油時間と同等になるなど、良いことがいろいろあるのですが、量産はまだ難しいのが現状です。今後10年間で生産技術が確立し、実用化されていると思います。

H2

ただ、電池はエネルギーの長期保存には向きませんし、非常に高額です。一方、エネルギーをガス化などによって物質として固定化すれば、長期間備蓄できますし、既存インフラを使って比較的簡単に取り出すこともできます。またガス化したものを貯蔵するための費用は、電池と比較すると安価です。そうすると、エネルギーは短期間でガス化し、それを最適に使っていくという方向にますます進んでいくでしょう。電池は進歩し続け、電池だけでは実現できない部分の技術も、2050年の段階でさらに進化を続けていると思います。

それから、リサイクルの技術はこれから相当に必要になってくると思います。電池の場合、リチウムの需要が大きくなると価格が高くなるので、各電池メーカーは電池内で電気を運ぶリチウムを再利用しないと回らなくなってきます。正極材で使われるマンガン、コバルト、ニッケル等のレアメタルも同様です。俗に言う静脈系と言われる、使用済みの製品から希少材料を取り出すリサイクル技術やビジネスに、これからYOKOGAWAは取り組まなければいけなくなると思います。

奥田:
リサイクルだけではなくて、リユース・リデュースもあります。電池産業においては静脈事業もまだ黎明期ですし、また、電池特有のカスケード利用がポイントになりますよね。

吉武:
そうですね。電池のリユースを例にとると、電池残存性能の程度を正確に把握した状態でリユースに持っていかなくてはいけないので、性能や安全性なども含めて、それらを評価する技術が必要になります。その分野では、横河ソリューションサービスがEVリユース電池の評価ビジネスを立ち上げようとしていて、まさにリユースやカスケード利用を狙ったビジネスと言えます。その後に来るのが材料のリサイクルで、これからとても重要になってくると思います。

インタビュイー写真_CN6

――リユースは、カーボンニュートラルを実現するまでの展開に変化をもたらすでしょうか。

川野:
リユースの場合、いかに電池の状態を壊さないで測るかというところも、技術として非常に重要になっていくと思います。

例えば、EVで使う電池は求められる性能が高いので、ある程度寿命が来るとEV用には使えなくなってしまうんです。しかし、電池としての性能はまだ十分発揮できるので、家庭など定置用に転用したい。ただ、EVで使われた電池の寿命がどれくらいあるのかがわからないと、その先に転用はできません。また、寿命や性能が不均一な中古の電池を定置用に転用しようとすると、マネジメントが非常に難しくなるので、できるだけ同じような状態のものを揃えてリユースすることが重要です。電池を壊さずに外から測り、性能を捉えた上で転用するための技術が必要になってきます。

吉武:
メタネーションに話を戻すと、CO2の排出源から出るガス中でも、CO2濃度はせいぜい20%ぐらいです。低濃度のCO2から効率的にメタネーションを行うにはどうすればよいか、研究テーマとして取り組んでいくべきだと思います。

川野:
今はメタネーションの研究を行っていますが、メタネーションですべてが解決するわけではありません。2050年や、もっと先の社会がどうなり、様々なエネルギーをどう組み合わせて使っていくのかをトータルで考えていかなければいけないと思っています。YOKOGAWAだけでできるというものではないと思うので、社会全体を巻き込みながら、世界平和というと大げさかもしれませんが、多くのいろんな人が幸せになれるような社会を作ることに貢献していきたいと思っています。

インタビュイー写真_CN7

――カーボンニュートラルの実現は、YOKOGAWAが掲げる2050年のサステナビリティ目標「Three goals」(環境のnet-zero emissions、社会のwell-being、経済のcircular economy)の達成に大きな比重を占める重要課題です。皆さんの取り組みが目標達成に大きく貢献することを期待しています。

インタビュイー写真_CN8


トップ