地球にやさしい低炭素島しょ社会の実現を目指す沖縄県
沖縄県は「沖縄21世紀ビジョン」の中で、「沖縄らしい自然と歴史、伝統、文化を大切にする島」という将来像を掲げています。この基本施策の一つとして、低炭素島しょ社会の実現を挙げ、クリーンエネルギーの普及を促進しています。中でも、「海洋温度差発電実証実験」は、沖縄県の地域特性に合った、地産地消による環境負荷の低減が期待されています。この実験は久米島にある、沖縄県海洋深層水研究所において進められています。
久米島は、沖縄本島から西に約100kmの東シナ海に位置しており、平均気温22.7℃と年間を通して温暖な気候に恵まれています。
久米島では、沖縄県海洋深層水研究所が持つ日本最大の海洋深層水取水設備が稼働しており、海洋深層水利用産業は、この10年間で島の主産業へと成長しています。現在では海洋深層水複合利用「久米島モデル」として、農業や水産業をはじめとした数多くの施設が運営されています。
将来の再生可能エネルギーとして期待される海洋温度差発電
海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion, 通称OTEC)とは、海洋のもつ温度差を利用して発電するシステムです。
太陽からの熱エネルギーにより温められた海洋表層水と、海洋を循環する冷たい深層水(水深600m~1,000m)の温度差を利用して発電します。アンモニアなど低沸点媒体を表層水(約25℃~30℃)で気化、その蒸気でタービンを回転させて発電し、深層水(約5℃~7℃)で液体に戻す仕組みです。低沸点媒体は、熱交換ユニットを経由して繰り返し発電に利用されます。特に表層水の温度が高い熱帯・亜熱帯地域に適しています。
この発電方式は、化石燃料やウランを使わず、海洋に蓄えられた熱エネルギーを有効活用する再生可能エネルギー技術として注目されており、NEDOの「再生可能エネルギー技術白書」によると、2020年までに510MW、2030年までに2,550MW、2050年までに8,150MWの発電規模が想定あるいは期待されています。日本だけでなく、海外でも実用化に向け研究・開発が急ピッチで進んでいます。
世界で唯一の海洋温度差発電実用実証設備
久米島で稼働している実用実証設備は、幅8m、奥行き8m、高さ9mの大きさで、最大出力50kW(将来的に100kWへ拡張も可能)の発電が可能です。熱媒体には、圧力を変えることで海水の温度でも蒸発・凝縮することが出来る代替フロンが使われています。
技術的信頼性の確立と商用規模プラントの性能予測を目的とし、連続運転試験のほか、気候や気温、海水温の変化に伴う出力の変動等を計測しています。これらのデータやその解析結果は、今後の大規模プラントの設計に向けた技術基盤として活用されます。この実証設備で作られた電力は、モデル地域にある研究所の電源に使われています。
久米島の沖縄県海洋深層水研究所で稼働中の海洋温度差発電実証設備
CENTUM VP導入の背景
横河電機は、2012年、IHIプラント建設株式会社、株式会社ゼネシスと共同で、沖縄県の「平成24年度海洋深層水の利用高度化に向けた発電利用実証事業」に応募し、採択されました。この実証実験設備の中で横河電機は、発電ユニットの監視制御システム及び系統連系*1 等の電気関係およびフィールド機器の設計・製造を担当し、制御システムとして、『CENTUM VP』を納入しました。
*1 : 電気事業者以外が有する発電設備を商用電力系統に接続すること
CENTUM VPの役割と効果
海洋温度差発電では、海洋に蓄えられた熱エネルギーをいかに有効活用するかが重要となります。そのため、取水/排水/熱交換/発電制御における全体の監視制御や性能管理、および各種センサーを活用した最適制御が必要です。設備全体を最適化すること で安定した運転が可能となり、発電効率の向上が実現できます。これらの制御を一手に担うのが、『CENTUM VP』です。
この設備は実験設備であるため、実際に運転をしながら最適な制御仕様を探る必要があります。複数のPID制御ループパターンを切換えて運用するので、頻繁なソフトの変更が必要です。『CENTUM VP』では実験に影響を与えることなくソフトの更新が可能 であり、このような要求にも適切に対応することができます。
また、実験ではデータの取得、解析が重要です。『CENTUM VP』では、必要なデータを容易に取得することができるだけでなく、再利用可能な汎用形式のファイルに自動保存されるので、解析工程へのスムースな移行が可能となっています。
専用キーボードを備えたヒューマンインタフェースステーション(HIS)
今後の展開とお客様の声
沖縄県は、エネルギー消費のほとんどを化石燃料に依存しており、エネルギー自給率の向上や化石燃料への依存度の低減を図るため、クリーンエネルギーの導入に向けた施策を実施しています。その一環として、久米島で海洋温度差発電の実用化に向けた実証実験を行うとともに、海洋深層水の多目的利用の可能性などを検討しています。将来、海洋温度差発電が実用化され、海洋深層水の多目的利用による産業振興と結合する「久米島モデル」が、世界に展開することを期待しています。
沖縄県商工労働部産業政策課 古堅様長嶺様
久米島では、海洋深層水複合利用「久米島モデル」の中核に、海洋温度差発電を考えています。将来的には、この海洋温度差発電をベース電源としつつ、太陽光、風力など100%再生可能エネルギーによる発電構想も描いています。そのためにもこの実験には期待しています。また、汲み上げた深層水は最大限有効利用したいと考えており、例えば、深層水の持つ「低温性」は発電に使用後もまだ十分冷たいため、これを利用し、ホウレンソウなどの葉物野菜の農地を冷やすといったカスケード利用も検討しています。
久米島は、「しまのゆんたくin久米島」で海と共に生きていく「海洋立島宣言」をしました。
今後も、海からの恵みを島の未来へ繋げていく活動を進めて行きます。
久米島町役場プロジェクト推進室 中村様
CENTUM VPを初めて使いましたが、専用キーボードから必要な画面をすぐに呼び出せたり、アラームメッセージから必要な画面への展開ができるなど、実証設備を運転する上でストレスがなく使い易いと感じています。
横河ソリューションサービスと連携して実験に取り組み、海洋温度差発電の普及につなげていきたいと思っています。
株式会社ゼネシス
左:日比野様 右:岡村様
業種
関連製品&ソリューション
-
CENTUM VP
統合生産制御システム 「CENTUM VP(センタム・ブイピー)」は、プラントの設計から、エンジニアリング、システム・機器の据え付け、生産立ち上げ、さらには稼働後の改修や変更を経て運転を終了するまで、プラントのライフサイクルにわたり最適な操作・エンジニアリング環境をお客様に提供します。
-
小規模プラント向けにも対応可能な CENTUM VP Basic
お客様が最適なプラント操業を実現するために、高信頼性、長期安定性などDCS本来の特長を保持しつつ、リーズナブルな価格でシステムを提供させていただくことはできないだろうか? そんなコンセプトから生まれたのが、小規模プラント・設備向け生産制御システムCENTUM VP Basicです。
-
統合生産制御システム(DCS)
独自のデジタル制御技術と経験、ノウハウの粋を集めた世界最初の分散形制御システム(DCS)である「CENTUM(センタム)」は、1975年に販売開始しました。発売以来、世界100カ国以上、累計30,000以上のシステムが採用されています。