概要
BASF SEは世界でも有数の総合化学会社です。本社のあるドイツのルートヴィッヒスハーフェンをはじめ、世界80カ国以上に子会社と合弁会社を持ち、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、南北アメリカ、アフリカに6つの統合生産拠点および約390の生産拠点を持っています。同社は、さまざまな業種の世界190カ国以上のお客様に向け、石油化学品、中間体、機能性化学品などの製品を提供しています。
YOKOGAWAはBASF SEのルートヴィッヒスハーフェンにある水処理プラントにおいて、アラーム因果関係解析(Alarm Behavior Analysis:ABA)と運転手順最適化ソリューション(e-SOP)の技術を組み合わせ、制御システムのアラームとオペレータの操作についての解析を行いました。このソリューションに対するBASF SEの期待は、単にアラームの最適化を行うことではなく、同社の目指している将来のプラントの自律化に向けた第一歩を踏み出すことでした。
お客様の課題
お客様は、常日頃からプラントの安全や操業効率を改善するための取り組みを行ってきていました。また、昨今の大きな課題である熟練オペレータのリタイヤに伴う技術伝承についても、より良い方法を模索していました。ちょうどその頃、YOKOGAWAが他のプラントで実施した運転手順最適化プロジェクト(e-SOPおよび運転効率向上支援パッケージExapilotの実装)の成果を耳にしたお客様は、YOKOGAWAに声をかけました。
YOKOGAWAはお客様の課題に対応するために、アラーム因果関係解析 ABAと、運転手順最適化ソリューションe-SOPを組み合わせ、「アラームが発生する因果関係」と、「アラーム発生時のオペレータの操作」の両方を包括的に解析し、操業効率をより向上するという新しいアプローチのソリューションを提案しました。アラームの最適化はもとより、アラームがどのような要因から起こるのかを理解すること、およびその際の適切な操作を学ぶことは、経験の浅いオペレータがプロセスを正しく理解し、正しい操作が行えるようになることにつながります。また、お客様はアラームが発生した際に関連して起こる「共連れアラーム」の原因についても、相関関係を解明したいと考えていました。
機械学習を用いて制御システムのイベントログなどのデータを解析するこのソリューションは、将来のプラントの自律化に向けた新たな一歩となるものです。
提供されたソリューション
データを解析するために、お客様の制御システム(DeltaV)から、アラームやイベントログの情報が収集されました。YOKOGAWAはまず、ABAを用いてアラーム同士や、アラームとオペレータが実際に行った操作(連続したアラーム、無視されたアラーム、アラームに対する操作等)の因果関係を解析しました。
ABAの特徴の一つは、定量的な解析結果だけでなく、アラームと他のイベントとの関連という、アラームの挙動を理解するために役立つ定性的な解析結果を提供できる点です。たとえば、ある2つのアラームがどのぐらいの頻度で発生しているか、またそれらが相互にどのように関連しているかを推定することができます。
ABAの概要
続いて、YOKOGAWAはe-SOPの技術を使用し、アラーム発生時に行われたオペレータの操作に焦点を当てて詳細な解析を行いました。e-SOPソリューションは、制御システムへの手動操作を可視化し、標準作業手順書(Standard Operating Procedure:SOP)と実際の操作との違いや、オペレータごとの操作の違いを明らかにするものです。
e-SOPの概要
プロジェクトのながれ
解析の結果について
解析の結果は、お客様に大変満足いただけるものでした。
- アラームの挙動、アラームに対する操作が明確に可視化できたこと
- これまでのアラーム監視ツールではできなかった、アラームと実際の操作との関連が明確になったこと
プラントでは長年にわたり、経験豊富なベテランオペレータによって運転が行われ、何度もオペレーションの改善がなされてきました。しかし、今回のソリューションによる解析の結果、標準操作手順について今まで明らかになっていなかった発見がありました。それは従来の改善活動や解析方法では複雑すぎて見つけることが困難なものでした。今後、さらに標準操作手順を改善するためには、どの操作がベストなものであるかをお客様と見極めていく必要がありますが、新たな発見は今後の改善活動にとって大変有効な現場の共通のナレッジとなりました。
今回の結果を受けて、プラントではアラーム解析活動をより改善し、加速することができました。ABAとe-SOPを組み合わせたソリューションが、お客様の操業効率改善に貢献できることが実証されました。
お客様の声
「私たちのプラントにはすでにアラーム監視ツールが導入されていましたが、因果関係を示すチャートを使用することで、これまで使っていたツールをさらに改善することもできました。これまで熟練オペレータしか知らなかったアラームと操作の関連性が可視化され、技術伝承にもつながりました。」
「昨年入社したばかりの私にとって、一つのアラームが、他のアラームや操作とどう関連しているかを理解できるのは大変有益です。上司や先輩オペレータとアラームや操作について議論する際、今回の解析結果が私の知識財産として役に立っています。」
「オペレータ一人ひとりの操作に違いがあるという点が、とても興味深かったです。アラーム設定や操作手順の改善により、オペレータの負荷やストレスが軽減されたと感じています。」
「私は30年以上もこのプラントで働いていますが、今回の解析結果から今後に役立つ新しい発見を得ることができました。」