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ELN(電子実験ノート)とは? 導入メリットや選定時のポイントについて解説

近年、多くの研究者が、アナログの実験用ノートから電子実験ノートへ切り替えようと動いています。今回の記事では電子実験ノート(ELN)について解説いたします。

なお、YOKOGAWAの電子実験ノートに新機能が追加され、医薬業界でも使いやすくなりました。
詳細については、こちらよりご覧ください。
 

ELN(電子実験ノート)の定義

ELNとはElectronic Lab Notebookの略で、科学研究用にカスタムされたノートソフトを用いて従来の実験ノートをデジタル化し、実験を記録・保存するシステムです。従来の紙の研究ノートよりも情報の共有や検索が簡単だという利点があります。加えて、文字が手書きでは無いことや紙の劣化に左右されないことなどから、視認性にも優れています。

 

Laboratory Informatics System(ラボインフォマティクス)とは?

ラボインフォマティクスとは、生命科学や化学などの研究分野でのデータ、情報、知識の管理、分析、共有のためのテクノロジーを指します。

Laboratory informatics の機能(一例)

  • 実験のワークフロー管理
  • 実験結果のデータ管理・分析
  • 実験レポートの作成
  • 実験機器のデータ管理

なお、ラボインフォマティクスには、大きく分類すると以下のようなコンポーネントがあります。

  • Laboratory Information Management System(LIMS):ラボのデータ管理、分析、報告などのワークフローをサポートするシステム。
  • Scientific Data Management System(SDMS):科学的なデータやドキュメントを管理するシステムで、大量のデータの解析やレポート作成に対応。
  • Electronic Laboratory Notebook(ELN):実験ノートの電子版で、研究者が実験データを記録、保存、視覚化、分析、共有するために特別に設計。
  • Laboratory Execution System(LES):ラボの実験実行を支援するシステムで、実験手順やデータ入力の標準化を実現。
  • Laboratory Instrument Integration Platforms(LIIP):様々な科学機器と連携し、データを取り込み、処理するシステム。

これらのコンポーネントは研究効率の向上、データの信頼性の向上、データの共有と再利用などの利点を生むことが期待されています。

本記事では、ラボインフォマティクスにおける上記5つのコンポーネントのうち、「ELN」にフォーカスして解説します。

 

ELNの現状

データの収集や分析にデジタル技術の活用が進む現代の研究現場において、滞りなく研究を進めるためにはELNの使用が必要不可欠です。デジタルでデータ保存をしていないことによる情報の損失は、研究の遅れや頓挫の大きな原因ともなり、ELNは研究の場で欠かせないものになりつつあります。
近年研究現場において、データの正確性・データセキュリティ・移植性など、さまざまな観点からELNの需要の高まりが見られます。特にクラウドでELNを提供する「クラウドELN」の市場が急速に拡大する見通しで、ELN市場全体の成長をけん引していくとみられています。また、定期的に行われる新しいアプリケーションの開発も、ELN市場の成長をさらに促進すると予想されます。

 

ELNの種類

一口にELNと言っても、使用用途と実装方法の違いによっていくつかの種類に分けられます。ここでは、ELNに関して、それぞれの概要および特徴を紹介いたします。

【使用用途による分類】

・GxP-ELN

GxPに関連する規制基準に従って設計・運用されたELNをGxP-ELNと呼びます。規制当局(FDA、EMAなど)の要件に準拠し、品質管理、データの安全性、トレーサビリティ、電子署名などの規制要件を満たすための機能を提供します。主に、GxP環境での研究や品質管理に使用されます。GxP-ELNは、品質管理の改善、規制要件の遵守、規制当局との承認プロセスの円滑化を目指します。

・Generic ELN

一般的なELNであり、特定の規制要件には直接対応していません。実験データの記録、管理、共有、検索などの基本的な機能を提供します。特定の業界や研究分野で使用されますが、厳密な規制要件を必要としない場合に適しています。Generic ELNは、実験効率の向上、データの統一性の確保、コラボレーションの促進などを目指します。

このように、GxP-ELNは規制要件を満たすために特別に設計され、厳格な環境で使用されます。一方、Generic ELNは一般的な研究目的に使用され、規制要件に直接対応する必要はありません。選択するELNは、使用する環境や目的に応じて適切なものを選ぶ必要があります。

【実装方法による分類】

・クラウドELN

クラウドを利用することの最も大きな利点は、システム連携の容易さと初期導入コストや維持費の低減です。Web APIなどを用いた技術により、他社ベンダーから供給される様々なサービスと容易に連携し、従来から保有している機能を強化し、利便性を高めていくことができます。またサーバなどのインフラ整備やメンテナンスなどをプロバイダーに任せることで、コスト低減やシステム導入にかかわる様々な負担を軽減することができます。

・オンプレミスELN

オンプレミスELNは、サーバをユーザー側で設置して、オンサイトで使うELNです。クラウドと比較して、利用するサーバやネットワーク機器などを自由に選定できる点が大きな特徴です。また、システムの運用においてクラウドELNはネットワーク持続の不具合や定期メンテナンスなど、サービス提供側などの都合に影響される可能性がありますが、オンプレミスなら自社の都合でシステムを運用できるというメリットがあります。

・ハイブリッドELN

研究室においては様々な分析機器が使用されています。これらの装置を使用し、さらにそれらのデータを保存、解析を行うため、各分析機器がPCに接続された状態となっています。これらの装置の実験情報をまとめるためには、PCに保存された情報を紙に出力したり、ノートに書き写すなどの行為が必要です。
このような状態の機器をネットワークに接続し、ELNサービスにデータを連携して使用するものがハイブリッド型ELNです。クラウドサービス側と機器に接続したPCをシームレスに連携させることで、データの保存、バックアップ、セキュリティなどのデータインテグリティーで要求される要件をカバーします。オンプレミスサーバーを利用したサービスでもほぼ同様のシステムを構築する事も可能ですが、サーバの維持、設置、コストなどがユーザー側の負担となってくるため、クラウドサービスのELNが使われるケースが多くあります。

 

ELNのメリット

研究の場にELNを導入し保管データをデジタル化することで、研究科学・開発を合理化・最適化を実現し、研究効率の向上に繋がります。ここでは、ELN導入の主なメリットを具体的に紹介します。

データを一元管理できる

研究データをまとめて電子化することで、過去の研究データを統一的に管理できます。また、アナログ媒体よりも保管場所がわかりやすく検索もしやすいため、必要な過去のデータを探す時間を短縮可能です。過去の自分の実験データを確認・整理するときはもちろん、研究室や研究所全体で蓄積された実験データも閲覧可能です。そのほか、以前の実験の状況をそのままコピーして、一部流用して使えるため、新しくファイルを作成する手間も省けます。

どこからでもアクセスできる

ELNの活用により、インターネット環境とパソコンやスマートフォン・タブレット等の端末さえあれば、いつでも場所の制約を受けずにデータベースへアクセス可能です。そのため、データを確認するために保管場所に足を運ぶ必要がなくなります。また、紙媒体の場合、情報が増えるに従い保管場所を圧迫しますが、電子化しておくことで情報量が増えた場合もリスクを低減できます。また、実験の写真やグラフなどの紐付けも容易になります。

不明瞭な文字を排除できる

データを紙媒体のみで保存している場合、手書き資料の文字が不明瞭で後から確認した際に読みにくいケースがあります。加えて、貼りつけた図や写真などの資料の劣化や有機溶媒によってデータが損失するリスクがあります。そこでELNでデータを電子化しておくことで、手書きによる不明瞭な字を原因とした読み間違えを無くし、正確な記録の保存に役立ちます。また、経年劣化による読み取り困難な事象やデータの消失なども防げます。

簡単に業務に必要な情報を抜き出せる

紙媒体でデータを保存している場合、よく使う資料を取り出しやすいよう行う整理や、必要な物のコピーにも労力がかかります。対して、ELNで電子化した資料は、紙媒体よりも整理が容易であり、必要に応じて複製や並べ替えも可能です。そのため、簡単に業務に必要な情報を抜き出せる、より使い勝手の良いデータベースへカスタマイズできます。そのため、資料を探す手間が削減され、業務の効率化につながります。

自社業務を分析・改善できる

紙媒体のデータとは異なり、ELNで保存したデータは監査ログとして、誰が、いつ、何を、行ったのか、履歴を残すことが出来ます。そのため、業務を行う際にどのデータの閲覧数が多く重要度が高いのか確認できます。ログやデータの閲覧傾向を解析することで、自社業務の傾向分析が可能です。前述した自社に合わせたデータベースのカスタマイズと併せて利用することで、必要な資料を効率よく取り出せるようになり、業務効率の最大化に役立ちます。

 

ELNを選ぶ際のポイント

ここでは、ELNを選ぶ際、覚えておきたいポイントを紹介いたします。導入の際に求められる必須要件を特定しておき、ニーズと合致するELNを探しましょう。

自社のニーズ・要件への適合性

ELN導入の際は、以下を明確にしておきましょう。

  • なぜELNを導入したいのか
  • 現在感じている業務効率の悪さは何が原因なのか
  • どのような機能があれば役に立ちそうか

その後、いくつかのELNを調査して、導入理由に最も適しているシステムを選ぶことが重要です。候補に挙げたシステムの無料試用版が提供されている場合は一度利用してみることで、自社業務や環境との親和性や、意識していなかった要望の把握につながります。

セキュリティ対策

ELNでデータを電子化すると、少なからず情報流出のリスクがあるため、セキュリティ対策が非常に重要です。強固なシステムを使っている場合や、データの暗号化が保証されている場合でも、流出の可能性はゼロになりません。しかし、データベースの監視を強化し、ELNのセキュリティに二重三重の防御を行い、注意を払うことでセキュリティに関するリスクは大幅に低減できます。そのためELNを選定する際は、セキュリティ対策が厳重に行われているかという点もポイントです。

費用対効果

ELNの選択において、費用対効果の高さは重要な要因の一つです。値段だけではなく、システムの使いやすさも念頭に置きましょう。適切に設計された使いやすいシステムを導入することで作業時間が短縮され、研究・業務効率の最大化につながります。価格と使いやすさの両方の観点から、システムの導入および既存データの電子化の手間に見合う価値があるかどうかを判定し、最も適したシステムを選びましょう。

 

お困りの際はYOKOGAWAへ

YOKOGAWAのOpreX Informatics Managerは研究ノートを電子化するだけではなく、ヒト・モノのリソース管理をスキル管理、スケジュール管理の観点から最適化可能な、あらゆる機能がひとつのパッケージになったクラウド型のELNです。
また、プロジェクト管理機能とドキュメント管理機能も併用することで、R&Dの研究室だけではなく、ライフサイエンス系生産部署、品質管理部署、品質保証部署をつなぐ、部署間をつなぐ情報統合管理システムとしても活用できます。

ユーザーフレンドリーなYOKOGAWAのELN「OpreX Informatics Manager」の詳細はこちらよりご覧下さい。

 

 

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