実験物理学の分野で活躍する横河のPLC

2015年の梶田博士のノーベル賞受賞で注目が集る素粒子物理学。2008年には小林博士、益川博士がノーベル賞を受賞しています。そのとき実証実験が行われたのが高エネルギー加速器研究機構のKEKBという施設です。
物質を構成する基本粒子クォークが6種類あれば「CP対象性の破れ」が説明できる、という小林益川理論の実証に貢献しました。この施設では20年以上も前から横河のPLCを採用いただいています。

高エネルギーの粒子加速器を用いて研究活動を行うKEK。高エネルギー加速器とは、電子や陽子などの粒子を光の速さまで加速して高エネルギー状態を作り出す装置のことで、この研究で宇宙誕生の様子を探ることができるのだとか。現在、KEKには線形加速器と円形加速器があり、いずれも世界最高クラスの性能があるそうです。

高エネルギー加速器研究機構(KEK) / 提供 KEK

高エネルギー加速器研究機構(KEK) / 提供 KEK

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実験物理学の分野で活躍する横河のPLC

入射器(線形加速器)施設は地下と地上に分かれており、地下には入射器本体が、地上には入射器を制御する装置やPLCがありました。入射器本体は全長600m(!)もあり、それに合わせて制御装置も600mにわたって多数配置されており、間近で見ると圧巻の迫力でした。
この施設でどのようにPLCが使われているのか、古川和朗教授にお話を伺いました。

 

制御装置/地上階

「地上階の施設は地下にある入射器本体と同じく600mあります。10mごとに合計60台の大電力マイクロ波発生装置が設置されており、またさらに多数の電磁石、真空、ビームモニターなどの装置が並んでいます。
それぞれ制御盤に収まっていて、多数の制御盤の中に横河のPLCが実装されています。横河のPLCは、入射器の制御だけで200台ぐらい使われており、真空装置・電磁石装置・マイクロ波などに関するオープンループ、クローズドループ制御を担当しています。マイクロ波が期待どおりに発生しているかどうかを測定したり、なにかしらの要因をセンスして電源を全て落とす、というインターロックにも使ったりしています。」

古川和朗教授

古川和朗教授

制御盤装置

制御盤装置 - 地上階施設

「加速された電子や陽電子が空気の分子と衝突して失われないよう、加速器のビームパイプの中は10-6パスカルから10-8パスカル程度の高真空に保つ必要があります。そのため入射器には400台ほどの真空装置が設置されており、PLC によって比較的単純な制御がされています。
電子や陽電子をまっすぐ、拡がらないように導くための電磁石も500台ほどが地下に設置されており、それを制御する地上階の電源装置はPLCで制御されています。必要に応じて遅いPID制御も実装されています。」

「クライストロンという真空管では電子レンジの10万倍強いマイクロ波が出せます。マイクロ波を地下に導いて地下の装置で電子を加速するのです。 電子ビームが思ったように加速されているか観測するビームモニター装置や、地下の加速装置の設置位置にずれがないかを監視する装置もあります。600mにわたって0.3mmの精度で正しい位置になっているかをPLCを使って測定しています。
制御システムは、EPICSという国際共同開発されているソフトウェア・フレームワークを用いて、構築しています。 F3RP61(Linux搭載PLC)を使っているPLCでは、上位計算機と全く同じEPICSソフトウェアが使用できます。 このことにより、ネットワーク経由の非同期処理などをEPICSが受け持ってくれることになり、自由度が向上し、システムの開発効率も向上しました。F3RP61 に搭載されたリアルタイムLinuxにより100μ秒の応答速度が実現できています。この速度はEPICSのソフトウェアにとって充分な速度です。100μ秒よりも速い応答速度が必要な場合にはFPGAを使ったハードウェアを設計することが多くなっています。100μ秒の応答が必要なときはRP61、それより速い 応答速度が必要なときはFPGA、と棲み分けることにより、VMEなどの特殊な組み込み計算機が使用される例が限定されてきています。」

クライストロン真空管と古川和朗教授

クライストロン真空管と古川和朗教授

 

入射器(線形加速器)/地下階

「この入射器加速装置の中を電子が走ります。加速管というパイプの中には銅の小部屋がたくさんあり、電子レンジの10万倍の強さのマイクロ波を投入します。すると電子がそのマイクロ波で波乗りをします。その波乗りでどんどん加速します。電子は非常に軽いので、600m のうちの最初の1mで光の速度の99.9%を越え、そのあとは徐々に光の速度に近づきます。別の言い方をすれば、アインシュタインの相対性理論により電子が重たくなって、エネルギーが高くなります。終端の600m先まで行くと70億電子ボルト、というエネルギーになります。そのエネルギーで電子を加速器リングに入射します。」

線形加速器 / 提供 KEK

線形加速器 / 提供 KEK

「一方、自然界にはない陽電子も作っています。電子をタングステンの小さな塊にあててガンマ線を作ります。ガンマ線はエネルギーなのでアインシュタインの相対性理論によって物質に変わることができ、電子と陽電子がでてきます。その陽電子を集めるのです。陽電子は電子の反物質なので、電荷が逆であるだけで電子とまったく同じと思って良いのです。マイクロ波の波乗りをするときに頂点で加速されるか、底で加速されるか、が異なります。陽電子もこうして波乗りをして40億電子ボルトのエネルギーまで加速されてリングに入射しています。
その電子と陽電子をリング内で絞り込み衝突させるとbクォークを含むB中間子ができます。その性質を調べよう、というのがKEKBの実験でした。これにより小林益川理論が実証されて、小林博士・益川博士のノーベル賞につながったのです。
そのKEKBのときよりも能力を40倍高めたSuperKEKBによる実験がまもなく始まります。宇宙から反粒子が消えていった理由の解明に迫り、また138億年前のビッグバンから始まった宇宙の歴史の解明もできるかもしれません。その成果に期待してください。」

 

横河電機のIAコントローラを採用した理由

当時からEthernetとの接続性が非常によかった

「ここでは20年以上前のPLCが現役で稼働しています。何種類かのPLCを使ってきましたが、今は横河のPLCしか使っていません。横河のPLCはその当時からTCP/IPプロトコルを標準搭載していてEthernetとの接続性が非常によかったのです。今採用を検討すれば他のPLCも検討に入るかもしれませんが、当時はEthernet/TCPIP経由で管理機能まで行うことができるPLCは横河にしかありませんでした。それは、プログラムを書く側のユーザにとって、非常に有用な機能でした。たとえば、 広域に配置されたPLCへEthernet経由でプログラムをダウンロードするといったことができるからです。当時の他のPLCでは専用のネットワークが必要であり、専用のRS-232Cなどを使ってシステムを閉じなければなりませんでした。」

電源装置と横河のPLC

電源装置と横河のPLC

「PLCを採用する以前はワンボードマイコンを使っていました。当時は通信速度が遅く、パケットが長くなってしまい、電気信号だとノイズとぶつかってしまいます。このことから電気信号を光信号に変換してエラー発生率を低くおさえ、そこにワンボードマイコンを接続していました。そのとき、先輩からPLCを使えばシステムをより安価に構築できる、と聞きました。本当に安価なシステム構築ができるのだったらそうしよう、ということでPLCを選択しました。 結果としてワンボードマイコンやVMEを使ったシステムより安価にシステム構築ができました。PLCの選択は間違っていなかったと思います。
その時こちらから出した条件にEthernet接続がありました。Ethernetのネットワーク環境でプログラムのダウンロード・データ収集・制御をする、という方法を取りたかったのです。
横河のPLCはその期待に応えてくれました。私たちグループの作業効率が上がり、他のグループも横河のPLCを採用するようになりました。保守性がよくて満足しています。」

 

営業だけでなく、技術者が直接相談にのってくれた

「2008年からはPLCのCPUの上でEPICSという共通制御フレームワークを使っています。それ以前のPLCでは、Linux計算機からパソコンリンクコマンドで通信することによって、EPICSの環境にデータを取り込んでいました。通信が非同期になってしまい、ドライバが複雑になり、その開発工数が私たちの課題の一つでした。
PLC上にLinux環境が実現できれば、通信がバックプレーンにあるインターフェースカード上の処理になるので、同期処理前提のドライバ処理のプログラムが記述できます。当時、横河にはe-RT3シリーズというVxWorksのようなリアルタイムOSを搭載したCPUがありました。それで横河さんに、是非Linuxを採用してくださいとお願いをし、それが実現しました。横河さんの営業だけでなく、技術者が直接相談にのってくれて本当に感謝しています。Linuxが安定して動作し、さらには将来の話と思っていたPREEMPT_RT(リアルタイム用のパッチ)も正式版では最初から適用していただいています。」

LinuxがインストールされたPLC / 提供 KEK

LinuxがインストールされたPLC / 提供 KEK

「EPICSという共通制御フレームワークにはコミュニティがあり、世界中の研究者が参加し、その恩恵を受けています。 海外ではヨーロッパ、アメリカ製のPLCがたくさん使われています。ところがEPICSとの接続が悪くてドライバ処理の開発に工数をかけています。LinuxをPLCに搭載すればその課題が解決できます。実際にLinuxを載せた横河のPLCは海外にも展開されていて、アジアでは少しずつ採用されてきています。
EPICSとPLCの組み合わせで横河さんに販売してほしいぐらいです。国内だけでなく、海外でもそうしていただければ、と思っています。」


以上で高エネルギー加速器研究機構(KEK)様の訪問記を終わります。
古川教授ありがとうございました。

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