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共創型リーダー教育への挑戦(2)- アカデミアから見た「未来共創イニシアチブ」の独自性 -

共創型リーダー教育への挑戦(2) -アカデミアから見た「未来共創イニシアチブ」の独自性-

未来共創イニシアチブが、従来のリーダー教育と一線を画している独自性や優位性とは、いったい何だろうか。第2回では引き続き、早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所の池上重輔教授および未来共創イニシアチブプロジェクトリーダーの玉木伸之の見解から、本活動のユニークな特長について迫っていきたい。

 

緩やかなつながりこそが有益な情報を生む“Weak Ties”

未来共創イニシアチブの現場では、YOKOGAWAの若手社員が社内外の人々と未来についてオープンに意見を交わせる仕組みがある。池上教授によると、このような場では「ウィーク・タイズ(weak ties)」という人間関係の在り方が、非常に重要なキーワードになるという。

「タイズとは『紐帯・関係性』という意味。“人々との弱い関係性”がイノベーションのきっかけになることは、よく知られた事実です。しかし、ウィーク・タイズが蜘蛛の巣のように張り巡らされ、縦横に交差しているような場は、今の世の中ではなかなか存在しておらず、これからの企業にとってますます必要とされるだろうと考えています」

ウィーク・タイズの概念は、1973年に米スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッター博士が発表した論文『The strength of weak ties(弱い紐帯の強み)』の中で言及された、社会的ネットワークに関する言説に端を発している。これは、家族や恋人、親友、職場の仲間といった“強い関係性の人々(strong ties)”よりも、適度に顔を合わせる程度の知人といった“弱い関係性の人々(weak ties)”の方が、有益な情報をもたらしてくれる可能性が高いというものだ。

池上氏

 

関係性をつなぐバウンダリー・スパナーの存在

“弱い関係性”からのインプットだけでは、人の行動はさほど変化しない。これらを複数つなぐことで“強い関係性”が作られ、結果的に大きな変化をもたらすことができる。そこで鍵となる存在が、「バウンダリー・スパナー(boundary spanner=境界線を広げる人・橋渡し役)」である。

池上教授の推量によると、一般的に内部の力を動かすことが得意な人は比較的多い一方で、外部の力を効率よく有機的に生かせる能力を持つ人は、まだまだ少ない。しかし、内外の両方に対して働き掛けられるような、境界線をつなぐバウンダリー・スパナーがいて初めて、蜘蛛の巣のように張り巡らされたウィーク・タイズの関係がプラスアルファの価値を生むようになる。そして未来共創イニチアチブでは、このバウンダリー・スパナーという存在が欠かせないという。

池上氏

池上教授は続ける。「例えば、未来共創イニシアチブにおいて、ビジネスとアカデミックをつなぐバウンダリー・スパナーは私であり、YOKOGAWA内や企業間でのバウンダリー・スパナーは玉木さんなんですね。玉木さんは、異なる部署の社員同士をつなげると同時に、社外の企業同士をつなげる役割も担っており、ネットワークの境界線を広げているのです」。

さらには、YOKOGAWAという一企業もまた、共創的なネットワークにおけるバウンダリー・スパナーだと呼べるのではないだろうか。

YOKOGAWAの本業はBtoBの支援型ビジネスを展開しており、多岐にわたる産業のバリューチェーン上でニュートラルなポジションにいる。つまり、Bの中にも入っているし、Cの中にもいるため、ある特定の産業に偏ることなく、広い視野で産業全体を俯瞰することができる。同様に、グローバルビジネス市場でも、特定の国、地域、コミュニティに偏ることなく、ニュートラルな立場を保っている。

「だからこそYOKOGAWAは、会社の垣根を超えたオープンで自由な共創的対話のプラットフォームを用意し、あらゆるサポーター&パートナーの関係をニュートラルにつなぐための最適な立ち位置にいるといえます。今後、こういった共創的な仕組みはますます必要とされていくはずですが、現時点でそれを実現できている日本企業は、YOKOGAWA以外には少ないのでは」と、池上教授は分析する。

玉木氏と池上氏

 

心理的安全性の中で自分らしさを発揮し、個を生かす強み

未来共創イニシアチブでは、オープンに意見を交わすことで若い世代がリーダーとして成長し、ゆくゆくは結果的により良い社会に向けたイノベーションにつながることが期待されている。池上教授は、本活動に参加すること自体が、すでにリーダーの人財育成になっていると評価する。その根拠として、未来共創イニシアチブでは、心理的安全性に配慮した環境を重視している点が大きい。

「従来型のリーダーには、(1)ひたすら人の話を聞く、(2)自分の考えを押し付ける、(3)周囲との調整に徹する、という三つのパターンしかありませんでした。しかし私が常に配慮しているのは、心理的安全性をもって誰もが自由に議論できる場づくりです。なぜなら、これからのリーダーには、メンバーの一人一人に自発的な発言を促していく能力が求められるからです」

自分の確固たる意見を持ちながら、相手からも忌憚のない発言を引き出し、ある方向性にまとめ上げていくことは、極めて難しいタスクだ。しかしこれは、次世代リーダーにとって必須のファシリテーション能力であり、未来共創イニチアチブではそれを居ながらにして学ぶことができる。

玉木氏

玉木は心理的安全性と関連して、お互いに“素”のままで認め合い、「自分」と「他者」を相互にリスペクトできることの重要性を強調する。たとえ他人から「言いたいことを言え」と言われても、相手のバックグラウンドや価値観を尊重する心がなければ、決して良い対話が成り立つことはないからだ。

「仲間から力をいただき、知恵をいただく。そこへ自分の個性が重なることで、自分の存在意義や存在価値を見いだせるのではないでしょうか。未来共創イニシアチブでは、ある特定の価値観を押し付けたり、“全科目で平均点を取る”といった日本の悪しき考え方をしたりする圧力から、若い人たちを解放し、成長マインドセットを育むことを支援したい。シナリオアンバサダーには、“自分らしさ”を発揮しつつ、多様な仲間と協力し、最終的に社会に対して良い影響を与える人たちになってもらいたいのです」

未来共創イニシアチブでは、(1)チャタムハウスルール〈Chatham House Rule〉、(2)建設的な意見の対立〈Constructive Conflict〉、(3)貢献のマインドセット〈Contribution Mindset〉の3つを原則としている。(1)は英国のシンクタンク「王立国際問題研究所(通称チャタムハウス)」が源流といわれ、当該会議で得られた情報は利用できるが、その情報の発言者やその他の参加者の身元および所属に関しては秘匿する義務を負う(明示的にも黙示的にも明らかにしない)というルール。(2)は、たとえ意見が衝突しても、皆が他人の意見を敬意をもって聴き、個々が自分の意見を自由に発言し合える環境。(3)は、その場の情報や示唆を受けるだけではなく、自分には何が貢献できるかを常に意識すること。いずれも実践することはなかなか容易ではないが、この3原則を適用することで、心理的安全性が保たれた環境で活発な意見交換を行うことができる。

玉木の話を受けて、池上教授はリーダーを目指す全ての日本人へ提言する。

「自分を好きになれない人は、そもそもリーダーになろうとは思えません。日本では、自分を好きになれていない人たちがあまりにも多い。これからのリーダーは、自分に自信が持てない、あるいは自分を好きになれないというメンバーやフォロワーに対して、彼ら・彼女らが自己肯定感を持てるように働き掛けることが大事です。これは、日本の社会において非常に大きな問題ですから」

自分を好きになり、相手をリスペクトしながら対話を重ねることで、コミュニティはさまざまな垣根を超えて広がり、より新しいものが生まれる。この“異質な存在との邂逅と新たな結合”のサイクルが、やがてイノベーションを生み出す未来につながるのだろう。

最終回である〈第3回〉では、未来共創イニシアチブと早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所の共創活動となる「Green Phoenix Project」について、詳しくお伝えする。

 

(3)に続く

 

 

池上 重輔

池上 重輔
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学 大学院経営管理研究科)教授・教務担当教務主任
早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所 研究所員
博士(経営学)

趣味はバスケットボールとスイーツ巡り

玉木伸之

玉木伸之
未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー

趣味はスキー、クラシック音楽鑑賞、旅行

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米国発テックカルチャー・メディア『WIRED』に掲載された、「未来共創イニシアチブ」の英文記事

 

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