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共創型リーダー教育への挑戦(1) - YOKOGAWA×早稲田大学によるコラボレーション -

共創型リーダー教育への挑戦(1) -YOKOGAWA×早稲田大学によるコラボレーション-

理想とされるリーダーシップの在り方は、時代や環境の変化によって変化する。未来の予測が困難な現代、かつてもてはやされた指示・命令型リーダーシップに代わり、多様な人々と共に構想・成長しながら価値創出を導く「共創型リーダーシップ」が求められている。YOKOGAWAにおいても、自社パーパスに含まれた言葉「つなぐ力」や、コーポレート・ブランド・スローガン「Co-innovating tomorrow」で、「共創」の重要性が示されている。

共創型リーダーにふさわしい人財は、いかにして育っていくのだろうか。その問いに対する一つの解が、「未来共創イニシアチブ」である。そこで今回、YOKOGAWAの未来共創イニシアチブプロジェクトリーダーの玉木伸之を聞き手として、本活動のサポーターであるの池上重輔教授に話を伺った。

全3回でお送りする本シリーズの第1回では、池上教授が未来共創イニシアチブに協力することになった背景をたどるとともに、この産官学融合が目指すリーダーシップ教育の在り方について迫る。

 

二人の課題意識がクロスして生まれたコラボレーション

日本を代表するグローバル経営戦略の研究者の一人、早稲田大学ビジネススクールの池上教授は、「未来共創イニシアチブ」のサポーターとして、経営学的観点からアドバイスを提供している。

池上教授との出会いは、十数年前に池上教授の経営戦略講義を玉木が受講したことだった。以来、受講終了後も仕事上のアドバイスを仰いだり、会食をしながら親交を深めたりするなどの付き合いを続けている。玉木は池上教授についてこう語る。

「池上教授は、もともとボストン コンサルティング グループ(BCG)出身で、その後はソフトバンクECホールディングス(当時)やニッセイ・キャピタルなど、ビジネスの最前線で活躍してこられました。グローバルな視点で国内外の経営を研究するだけではなく、ビジネススクール、コンサルティングファーム、事業会社という三分野でも豊富な経験を持つ、非常に稀有な経歴の持ち主なのです」

玉木が二人の会食の際に、未来共創イニシアチブ構想のプレゼン資料を持ち込んでいたことを、池上教授は振り返る。

池上氏

「あのときは食事というよりも、プレゼンのために設定された場だったのかもしれません(笑)。でも、玉木さんの話がすごく面白そうだったのです。そもそもシナリオプランニングの手法は、この不透明な時代には必須のアプローチだと思っていたし、若手の人財育成の一環として、彼らが主体となって未来シナリオを作成していくプロセスは、とてもユニークだと思いました。これを発展させると、YOKOGAWAだけではなく他の企業にとっても資するものになるのでは、という予感がしたんですね」

ちょうどこの頃、池上教授らが「早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所」(以下、GSRI)を創設した直後でもあり、偶然にもこのテーマが合致。二人が抱いていた課題意識が、見事にクロスした。ほどなく、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で、当時GSRI所長を務めていた川本裕子氏(現・人事院総裁)からの強い後押しもあり、未来共創イニシアチブ立ち上げの火ぶたが切られた。

 

未来予測 vs シナリオプランニング、どちらが有効か?

そもそも、シナリオプランニングとは何か。池上教授によると、“未来予測”と“シナリオプランニング”を混同し、その意味を誤解している人が多いという。

「まず未来予測とは、過去の知見を積み上げて未来を考えるため、過去からの延長線上に予測が収まります。ゆえに方向性は一定となり、唯一異なるのは、『程度の幅』が生じること。一方、シナリオプランニングとは、起こり得る不確実な未来をいくつかの軸を設定して予測し、それを起点にバックキャスト(逆算)して考えるためのものなので、『方向性の幅』も『程度の幅』も生じます。程度の幅だけしかない分析と、方向性と程度の両方の幅がある分析とでは、生まれる発想や考え得る戦略は全く違ってきます」

これらの相違を説明するために、池上教授は次のような具体例を挙げている。「例えば毎年末、大手ビジネス雑誌が、翌年の未来予測を発表します。しかし2021年の暮れに2022年予測特集を出版した主要経済誌の中で、翌年2月にロシアのウクライナ軍事侵攻を予測したケースは皆無でした。一方、シナリオプランニングで分析した場合、世界が平和に推移するケースと、世界が分断されるケースの両方から逆算し、両方のシナリオに必要な戦略は何かと考える。このように、国際的な対立や紛争のリスクが高まる可能性が分析の中にも含まれるのです」。

さらに玉木は、池上教授の説明をこう補足する。「未来予測は、当てることを目的としたり、その予測へと誘導したりすることに使われる傾向があります。逆にシナリオプランニングは、未来は予測できないという前提であり、良い意見を交わすためのツール。つまり、変革を起こすための有効な議論の手段となり得るのです」。

玉木氏

 

グローバルリーダーに必要な要件とは

池上教授は、今後求められるグローバルリーダー像の分析を行っている。その前提となるのは、自身が持つ「経営者としての感覚」「アカデミックな知見」「国内外で二百人以上にも及ぶCEO・CHROへのヒアリング」「ビジネススクールでの数千人規模に及ぶリーダー教育のインプット」という四つの軸だ。

「グローバルリーダーにまつわる定義は数え切れないほどありますが、ここでは『何らかの形で、世界的な規模でフォロワーに影響力を与えられるリーダー』と定義しましょう。そこで必要になるのは、『スキルセット』と『資質』。ただし、これらの二つは分けて考える必要があります」

スキルセットとは、学習したり経験したりすることによって身に付き、上達していく性質のもの。そして池上教授は、グローバルリーダーに必要な「スキルセット」として、例えば次の三つを挙げた。

  1. イノベーションを創出する力
  2. 変革をリードする力
  3. 複雑な異文化チームをマネジメントする力

これらに対し、もともと人に備わっている性格や性質が「資質」だ。グローバルビジネスの専門家であるアラン・バード教授が書いた資料では、グローバルリーダーに求められるのは以下の四つとされている。これらは人が学びや経験を重ねても、そう簡単には変わることがない。

  1. インテグリティ(integrity=誠実さ)
  2. ヒューミリティ(humility=謙虚さ)
  3. インクィジティブネス(inquisitiveness=知的好奇心)
  4. レジリエンス(resilience=柔軟な打たれ強さ・回復力)

玉木氏と池上氏

 

より重要性を増す“4つの資質”

池上教授によると、多くの人々がスキルセットを優先しがちで、それはもちろん重要なのだが、昨今は資質の重要性の方が増してきているという。その理由として、近年、インテグリティやヒューミリティの欠如が原因で転落してしまうトップリーダーも決して少なくないからだ。その最たる例が、国内大手の某自動車メーカーを約20年にわたり率いてきたトップの存在といえる。

「私はその企業から委託された後継者育成プログラムの責任者を務めていた時期があり、彼とは毎月のように会っていました。グローバルリーダーとしてのスキルセットでいえば、彼は“教科書が服を着て歩いているような人”で、満点だったのです。ところが、成功を収めて10年、20年経つうちに、だんだんと誠実さや謙虚さが欠けてしまった。とはいえ、そもそも本質的に資質がその人に備わっていなければ、誠実さや謙虚さも表れてこないのです」

3つ目の資質として“知的好奇心”を意味するインクィジティブネス。聞き慣れない言葉だが、池上教授が特に注目しているものだ。知的好奇心があるから、いろいろなスキルを身に付けられるし、さまざまな経験ができる。異文化に対しても、興味を持つからこそ相手を受け入れられる。やがて、そこからイノベーションや変革が生まれてくるのである。

最後に、リーダーの資質に欠かせないのがレジリエンス。「新たなことに挑戦する際には失敗が付きものであり、失敗なしには成長もできない。それを考えると、失敗に打たれ強く、成長する回復力を備えていることがリーダーに求められるのは必然でしょう」と、池上教授は分析する。

池上氏

 

若者が中心となる時代へ ~未来共創イニシアチブが必要とされる理由~

池上教授は、これからのリーダーは若年層へとシフトしていくのではないかと予見する。

「日本の場合、社長就任の平均年齢は60歳です。年初に就任されたトヨタ自動車の新社長は、53歳。しかし私は、それよりもさらに若い世代が企業をリードすべきだと考えています。そのためには、早くから若手がリーダーとしての修練を積める場が必要となります」

これまでは、年長者の経験が重視されていた。なぜなら、過去の経験の延長線上に未来があるときには、経験が生かされるからである。ところが逆に、過去の経験が邪魔となり、組織にとって悪になる可能性が出てきたのが、未来が不透明な現代だ。

「若者には、教育を通じて学び、柔軟に変化し、成長するためのリードタイムが十分に備わっています。彼らは過去の経験にも縛られません。ですからマインドセット次第では、新たな価値を創出したり、イノベーションを生み出したりするチャンスが大いにあるのです」

未来共創イニシアチブでは、若いメンバーがシナリオを作成するために、社会や産業のメガトレンド、STEAM教育 のエッセンス、コンセプチュアルスキルを高める思考方法、さらには共創的コミュニケーション方法など、世界のリーダーやエキスパートと対話するための多様な分野にわたる書籍を100冊以上読み込んでいる。「本活動には、リーダー育成のためにこれからの世の中で必要となる要素の大部分が詰まっている」と、池上教授は高く評価している。

※ 科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念

玉木氏と池上氏

「未来に関してこれほど膨大な数の本を読んでいる60代以上の役員は、日本中どこを探してもいないでしょう。このような活動で経験を積めば、おのずと若い世代の方が、長期的かつ高い視座で得られる企業戦略のナレッジが豊富になります。役員より優位に立てる軸を持つようにもなるはずです」

目を外に向けて、戦略をつなぐ経験を積める場を若者に与えたい――。そのプラットフォームを提供することこそ、池上教授と玉木が考える未来共創イニシアチブの活動意義なのだ。

続く〈第2回〉では、未来共創イニシアチブを特徴付けている重要な独自性や優位性について、具体的に解説していく。

 

(2)に続く

 

 

池上 重輔

池上 重輔
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学 大学院経営管理研究科)教授・教務担当教務主任
早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所 研究所員
博士(経営学)

趣味はバスケットボールとスイーツ巡り

玉木伸之

玉木伸之
未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー

趣味はスキー、クラシック音楽鑑賞、旅行

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米国発テックカルチャー・メディア『WIRED』に掲載された、「未来共創イニシアチブ」の英文記事

 

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