Net-zero emissions Well-being Circular economy

「Three goals」を実現するYOKOGAWAの変革

一昔前、企業の永続性は「going concern」という言葉で表現された。しかし、それは経理財務、マネージメントプラン、リスクマネージメントなどの側面からの議論であり、今日の事業を取り巻く環境を考えると極めて限定された考え方である。スマートフォンから世界中の街角に瞬時にアクセスできるサービスが存在し、SNSがグロバールかつインディビジュアルなコミュニケーション手法を確立した21世紀の今日、我々は地球が閉ざされた空間であることを毎日のように実感している。今後はこの閉ざされた空間の永続的存続、つまり経済、社会、環境の3つの側面のバランスをとって社会を発展させるというトリプルボトムラインを満足するエコシステムに適合できる企業のみが生き残ってゆくであろう。

多くの企業が国連グローバル・コンパクトや持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD: World Business Council for Sustainable Development)などのイニシアティブに参画し、このエコシステムの形成を図っている。そこはルールメーキングによるゲームチェンジを狙う場であり、政府への働きかけはもちろんのこと、将来の技術課題を克服するために、現在の競合とすら手を組むアライアンスも盛んに行われている。その他にも事業領域を再定義したことを投資家へ知らせるために社名を変更するなどエコシステムに適合するための様々な動きが見られる。

2017年5月、YOKOGAWAはWBCSDに加盟した。ビジネスパートナーとともにエネルギーの課題を解決する新たなソリューション提案などに取り組んでいる。エネルギーや産業用素材、医薬品や食品といった様々な産業、社会インフラを支えるお客様とともに我々の世界を変革することで、未来世代におけるより豊かな社会の実現に貢献していきたいという強い思いがある。そこで、2050年に向けた長期目標である「Three goals」を策定した。気候変動への対応としてNet-zero Emissions、すべての人の豊かな生活を目指すWell-being、そして、資源循環と効率化によって実現するCircular Economyである。また、2030年に向けて中期目標も策定した。これらを実現することは、決して容易ではない。実現にはYOKOGAWAにとって、大きな変革が必要である。

Three goalsと2030年に向けた中期目標

1つ目の変革は、Automation Supplierからの脱却である。YOKOGAWAはオートメーションシステムの推奨ベンダーとして、プラントの安心・長期安定運転を支える高信頼のソリューションを提供し、お客様の理想の工場の実現に貢献してきた。しかし、その事業領域を工場に限定していたのでは、お客様の事業環境の変化によって現れる新たな課題には対応できない。例えば、お客様がSDGs(Sustainable Development Goals)に貢献する際の課題として、サプライチェーンの可視化と最適化、変化する労働力への対応などはその典型的な例である。そこで、YOKOGAWAはお客様フォーカスによる新しい価値づくりを行い、その事業領域を工場からお客様の事業へ拡大することを目指している。その活動の中で、お客様の組織のあらゆる要素を結びつけて、ビジネスおよびドメインナレッジとデジタルオートメーション技術を統合させる。

工場の中にあるDCS、伝送器などオペレーショナルテクノジー(Operational Technology: OT)が作り出す生産データと、インフォメーションテクノロジー(Information Technology: IT)が扱う人事、サプライチェーン、設備などのデータを統合、解析し、お客様の事業の生産性向上に貢献する。ただのOTとITの統合ではなく、お客様のビジネスプロセスを理解した上での戦略の提案、その戦略を支える経験と実績に裏打ちされたリスクのないオートメーションの実装、およびそれらのライフサイクルでのメンテナンスのサポートを行いながら、お客様の経済価値にコミットしていく。

2つ目の変革は事業ポートフォリオである。SDGsの採択などの動向が引き起こす事業環境の変化はお客様だけではなく、YOKOGAWAの事業そのものにも大きな影響を与える。化石燃料の探鉱、開発・生産、精製する化石燃料をエネルギーとして使用しCO2を排出する、化石燃料を化学物質として使用し廃棄するという直線的、不可逆的なプロセスは閉ざされた空間の中ではもはや認められない。化石燃料の役割が大きく見直される中で、原油価格や為替の影響を受けやすいエネルギー産業に偏重したYOKOGAWAの従来型成長モデルを見直す必要があり、外部環境の変化を捉えたさらなる変革が必要であった。そこでYOKOGAWAは、新たな注力業種を「資源、エネルギー、マテリアル関連産業」、「人々の健康や暮らしの豊かさを支える産業」、「バイオエコノミー」と定義し、Three goalsのWell-being(すべての人の豊かな生活)の実現を目指している。YOKOGAWAはこれらの業種においても、その製品開発やモノづくりにおける多くの新たな課題解決に向けて、これまでに培った計測・制御技術を水平展開し、お客様の事業変革や生産性向上に貢献していく。

子供と未来

そして最後に忘れてはならないのがDigital Transformationであり、重要な役割を担っている。先ず、YOKOGAWAグループの全体最適を行い、生産性を向上させる。日々の業務プロセスは定型化し、必ずしも人がやらなくてもよい作業にはロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation: RPA)を活用することで、社員は付加価値の高い仕事に専念する。そして、ネットワークやセキュリティを強化し、社員の働き方を大きく変えて、自社の成長基盤を確立させていく。

YOKOGAWAは自ら製造を行いながら、お客様の製造に貢献するソリューションを提供している。つまり、お客様が抱える課題はYOKOGAWAにとっても課題である。お客様から Trusted Partnerとして認識されるためには、お客様と同じ課題を自らが認識し、解決への道筋を体験することが大切である。そして、YOKOGAWAでの取り組みを紹介することで、お客様のDigital Transformationの実現や、資源循環と効率化に貢献する。

例えば、YOKOGAWAはグローバルマザー工場である甲府工場やいくつかの工場においてYOKOGAWAの製品やソリューションを活用し、設備やエネルギー使用の状況を見える化している。省エネルギーはどの企業にとってもSDGsの達成に向けた大きな経営課題の1つであり、お客様の関心も極めて高い。現にこれまでにも、経営レベルを含む多くのお客様の訪問を受け、ソリューションの詳細やその効果を紹介してきた。そして、そこでの議論からお客様との新たなco-innovationの機会が実際に生まれている。

YOKOGAWAは創業の精神を受け継ぎ100年以上を歩んできた。「より豊かな人間社会の実現に貢献」を企業理念の1つに定めて、社会・環境価値を意識しながら事業を進めてきた。先行きが不透明で、不連続な変化が急速に進む中、YOKOGAWAのOutputを拡大し、お客様のOutcome、ひいては社会・環境に対する良いImpactを向上させていく。最終的には、それらが豊かな社会の実現への貢献につながっていくことになる。YOKOGAWAはお客様を含むエコシステムに所属するすべての人とのco-innovationによって、新たな価値の共創をますます加速させていく。

本記事は横河技報Vol.62, No.1 (著者:上原 茂義  横河電機IAシステム&サービス事業本部長)に掲載したものを使用しています。