Net-zero emissions Well-being Circular economy

パーパス ―社会的使命を果たすための道標

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人々の生活や、社会、経済の様相を一変させました。地球上にはそれ以前から、気候変動をはじめとする地球環境問題や経済的な格差の拡大、その結果としての社会の分断など、さまざまな課題が存在していましたが、COVID-19はそれを改めて浮き彫りにしました。

この困難は、未来に向けて持続可能な社会を実現するために、個人や企業は何をなすべきか、その存在意義や果たすべき役割について考え直すきっかけともなりました。また、世界共通の課題に直面したことで、世界の人々が相互のつながりを認識し、信頼し合い、共感することの重要性も見直されています。

地球規模の課題を克服するために

― ステークホルダーへの価値提供に欠かせない企業の志と推進力

この地球規模の課題に取り組むためには、政府、企業、市民のそれぞれが社会的責任を果たし、連携、協力することが不可欠です。中でも、企業は社会に大きな影響を及ぼす存在として重要な役割を持ちます。企業に強く求められているのは、多方面に存在するステークホルダーに対する価値の提供です。先行きが不透明で予測が困難な「VUCA」と言われる時代にあって、長期的な視点で環境、社会に貢献しながら持続的な成長を目指すことが経営課題となっています。

そうした中で、企業の「パーパス(Purpose:存在意義)」の重要性が改めて認識されています。世界がCOVID-19パンデミックという危機に直面し、企業や組織の変化への対応力や俊敏性について語られることが多くなりました。しかし、自らの存在意義(パーパス)とそれに基づく役割が明確になっていない限り、適切な方向への行動を起こすことは困難です。企業は社会の一員として、社内外のステークホルダーが共感できる共通の価値観や考え方を企業活動や経営の軸に据えることが必要です。パーパスは、個人の役割や思いにも深くつながっており、企業と個人のパーパス、すなわち目指す「志」が一致していれば、組織は強い行動力と推進力を得ることができます。

振り返ってみれば、パーパスは日本企業にとって新しい概念ではありません。わが国には江戸時代以前から「売り手良し、買い手良し、世間良し」という、今でいうステークホルダー重視の経営につながる近江商人の「三方良し」という考え方がありました。また、日本資本主義の父といわれる渋沢栄一など明治以降の名だたる経営者は、事業を通じた社会課題解決を目的にして、顧客や社会、社員との関係づくりの大切さを語っています。

横河電機の創業者である横河民輔も1915年の創業時から社会的使命を強く意識しており、新しい分野に挑み始める創業メンバーを次のように励ましました。
「君たちは、この仕事でもうけようなどと考える必要はない。それよりもまず、技術を覚え、技術を磨くことだ。横河電機の製品はさすがに良い、と言われるようにしてもらいたい。」

横河民輔の示した創業の精神には、「品質第一主義」、「パイオニア精神」とともに、「社会への貢献」が挙げられています。YOKOGAWAの事業である計測や制御は産業の発展に欠かせない技術であり、世界人類のためになるようなものを作り出していきたいという思いは、1世紀以上にわたり引き継がれてきました。

こうした想いのもとに、YOKOGAWAは社会や経済の変化を見据え、時代に先駆けた技術を開発し新たな価値を提供してきました。その積み重ねにより、わずか4人でスタートした電気計器の研究所は、現在では産業オートメーションを支える企業として、世界の産業やインフラの発展に貢献、多くの産業に欠かせない製品やサービスを提供するに至っています。

パーパスと覚悟

人と地球が共生する未来の実現を目指して

― 測る力とつなぐ力をコアコンピタンスに持続的な価値を創造、社会課題を解決する

YOKOGAWAは2021年5月、新中期経営計画の策定と長期経営構想の見直しを機に、自らが社会に存在する意義を示し、社会的使命を果たしていく道標となる「Yokogawa’s Purpose」を制定しました。

Yokogawa’s Purpose:「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす。」

これはYOKOGAWAのお客様、市場、社会からの要望や期待に応えるコミットメントです。「測る」は、YOKOGAWAの原点であり、起点です。ものごとを測り、今ある状態をとらえて分析し、そこから導き出される情報を利用して価値を創出します。「つなぐ」は、YOKOGAWAが価値ある情報を結びつけ、さまざまな産業においてお客様との信頼関係を築き、企業と企業、産業と産業の結節点となって、価値を共鳴させていくことを意味しています。

「測る力とつなぐ力」をコアコンピタンスとして、YOKOGAWAはお客様のプラントや社会インフラにおける安全で効率的な運用や、最先端の研究開発を支えてきました。この力を今、人類が抱える共通の社会課題の解決に生かし、人と地球が共生する未来をかなえたいという思いを「地球の未来に責任を果たす」という言葉に込めています。この地球規模の課題解決は一企業で成し得るものではありません。YOKOGAWAはこれまでも共創を重視し、実践してきました。パーパスの制定と公表はYOKOGAWAにとって、自社の志を再確認し、成すべきことを見極めるとともに、社内外のさまざまな人の共感を得て、求心力を高めるための重要なものです。

明確な目標を掲げ、着実に歩む

― サステナビリティ目標「Three goals」の達成に向けて共創を促進

Yokogawa’s Purposeの制定と同時に、Vision statementの再定義も行いました。
Yokogawa’s Purposeが普遍的な道標である一方、Vison statementは長期経営構想で目指す10年後のYOKOGAWAの姿を端的に表現したものです。

Vision statement:「YOKOGAWAは、自律と共生によって持続的な価値を創造し、社会課題の解決をリードしていきます。」

操業の「自律」化は、生産性向上やリスクの回避、人の負荷低減や安全の確保に貢献し、組織や企業、産業の枠を超えて進められていきます。その中で、YOKOGAWAは複数の企業の共創によって、持続可能な方法で事業を展開する「共生」型の産業界と社会の実現を目指します。そうして、持続的な価値を創造し、社会が抱える課題の解決に率先して取り組んでいきます。

Yokogawa’s Purposeの制定とVision statementの再定義は、組織と個人の志を一致させ、共感をもてるものとなるように、YOKOGAWAのありたい姿と存在意義についての社員の参画によって行われました。グローバルで社員へのWebサーベイを行い、社長とのオンラインによるラウンドテーブルを通して、グループ社員の会社への思いを確認しました。その思いの上に策定されたのがこの2つのステートメントです。

YOKOGAWAは2050年に目指すべき社会の姿として、持続可能性の3側面である環境・社会・経済に対応する「気候変動への対応(Net-zero Emissions)」、「すべての人の豊かな生活(Well-being)」、「資源循環と効率化(Circular Economy)」から成るサステナビリティ目標「Three goals」を掲げています。そして、長期経営構想に基づいて、重点課題を明確にし、短期的な事業活動指標、中期的な社会インパクト指標を設定、その実現に取り組んでいます。

価値観共有

「Three goals」の達成に向けて、YOKOGAWAの測る力とつなぐ力はさまざまな分野で発揮され、新たな価値を生み出しています。地球温暖化対策の有効な対策として注目されているカーボンリサイクルにおいては、そのカギを握る水素の安定生産に、YOKOGAWAの制御技術が貢献しています。 人々の豊かな生活に欠かせない医薬品の分野では、高精度なリアルタイム監視と高度制御によってバイオ医薬品の開発の効率化を支援しています。近年は、バイオ医薬品生産の割合が増え、連続的に培養する方式に期待が高まっていますが、この技術・ノウハウを応用し、生産用途、さらには連続生産用途で活用できる培養ソリューションの開発にお客様と共に取り組んでいきます。
循環型社会の実現に向けては、ポリエステル樹脂リサイクル分野で、独自の技術を持つ日本環境設計と共創し、世界最先端の資源循環を可能にするプラント操業を目指しています。

未曽有の試練に直面し、人類は世界が相互につながっていること、そして地球規模の課題解決には共創が不可欠であることを再認識しました。先行きの見通しが不透明な中で、予想もしなかった変化に対応しながら、人と地球が共生する美しい地球を未来世代につなぎ、「地球の物語」をどのように書き進めていくのか―。YOKOGAWAは、Yokogawa’s Purposeで掲げた「地球の未来に責任を果たす」という決意のもと、挑戦を続けていきます。