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「地球は青かった」― 1961年、世界初の有人宇宙飛行で、旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンが残したこの言葉のとおり、地球は水に覆われています。その大半は海水が占めており、人間が利用できるのは地球上の水のうちわずか0.01%に過ぎない淡水だけです。水は、飲用水などの日常的な用途だけでなく、食料生産や経済活動においても人間の生活を支えています。しかし今、気候変動や世界的な人口の増加によって、安定した水資源の確保が困難になってきています。2050年までに世界人口は90億人近くに達する見通しですが、このうち3分の2に及ぶ50億人近くが水不足を経験すると言われています。食料増産の必要性や開発途上国の経済成長などによって、水需要は増大すると見込まれており、水をめぐる世界的な獲得競争は激化する一方です。

水リスクは産業にも大いに関係し、直接的な業務面と財政面の両方において、影響を与えます。それは同時に、持続可能な成長の妨げにもつながります。水の安定供給を実現するために、世界全体でこの問題の緊急性を認識し、水リスクを軽減するための仕組みや方法について包括的な議論をしていくとともに、迅速で決断力のある行動をとることが求められています。

あらゆる状況へ応えるために

― 水のニーズと入手方法は地域によって異なるため、それぞれの状況を正確に評価しながら、解決策を検討していくことが不可欠

水の供給は、日常生活や産業などの経済、社会活動が機能する上での要と言えます。上下水道インフラの整備は、公衆衛生と生活環境の改善に不可欠です。飲用水に加えて、農業用水、工業用水、生活用水というように、人類社会は水なしには存続できません。また、国や地域ごとに品質基準や使用率、需要などが異なっており、それぞれ固有の課題を抱えています。

安全な水を安定的に供給するためには、水源の開発、上下水道の構築、水処理と水質管理、効率的なシステム運用などを適切に行う必要があります。そして、水の品質と需要がそうであるように、解決に向けた課題や状況、障害は、国や地域ごとに特性があります。例えば、送配水システムが早期に普及した先進国では、老朽化した管網の更新や管理が主要な課題です。他方、急速な都市化の途上にあれば、下水の集水や処理などのインフラ整備およびサービスの向上、さらに発展途上国では、社会的に需要の高い上下水道の処理技術の普及などが挙げられます。それぞれの事情で、持続可能性への異なる要求や課題に取り組まなければなりません。

こうした多様なニーズを満たすためには、国や地域の状況に関する知識と理解、最後まで成し遂げるためのノウハウや技術、そしてプロジェクトの推進力が必要です。また、このような対策を効果的かつ迅速に実施していくためには、熟練した人材も欠かせません。

生命と渇水

「降雨量をコントロールすることはできません。しかし、水の運用をコントロールすることで、気候変動に対応した、レジリエントな社会に向けて前進することは可能です」
- World Bank report: “High and Dry: Climate Change, Water, and the Economy,” August 2016

地球上の水問題の解決に向けて

― 国や地域のニーズに完璧に対応した技術やソリューションが、水ストレスを抱える地域に真の希望をもたらす

降雨量がもともと少ない土地や、川などの天然の水源から遠く離れている地帯では、水不足が喫緊の課題です。カリフォルニア、テキサス、フロリダを含むアメリカ南部の州では、気候変動が特に甚大な影響を及ぼしており、安定した水源の確保が文字どおり生死に関わる問題となっています。

救済策になり得る手段の一つとして、限りある水資源に直面する国や地域では淡水化に目を向ける事例が増えています。この方法にはまだ課題もありますが、海水の脱塩や下水の再利用などの従来とは異なる水源から飲用化を図ることが可能です。YOKOGAWAでは、計測、制御、情報の技術をコアコンピタンスに、それぞれの国や地域、社会のニーズに応えながら、水の安定した生産をサポートする技術やソリューションを提供しています。

海水から塩分やミネラルを取り除いて淡水を生産する「海水淡水化プラント」が、中東地域を中心に世界中で建設されています。特に増加しているのが、海水に圧力をかけて逆浸透膜を透過させることで塩分を除去する「膜法」による海水淡水化プラントです。海水を蒸発させる手法よりもエネルギー効率が高く、エネルギー使用量とCO2排出量の削減につながることから、市場は膜法と自然エネルギーを活用してさらなるエネルギー削減に向けた技術開発に積極的です。

ペルーの首都リマ南部に位置するサンタマリア地区は、年間を通じてほとんど雨が降らない砂漠性気候です。この地区に、ペルー初となる飲料水用の逆浸透膜方式海水淡水化プラントが建設されました。このプラントに関連する下水処理プラントやパイプラインでは、YOKOGAWAの監視制御ソリューションが導入されています。配水用と下水用のパイプラインの全長は260 km、海底放流パイプラインの全長は780 mに及びます。YOKOGAWAの統合生産制御システムとネットワークベース生産システムは、これらの設備を監視制御することで、最適な操業をサポートしています。

この海水淡水化プラントにより造られた水は、約10万人の地区住民に対して24時間休みなく供給されています。また、処理した下水の一部は地域の緑化のために再利用されるため、環境保全にも貢献しています。まさに地域住民の希望をかなえ、生活インフラとして機能しているのです。

生活と水

「都市や村では、生活排水、産業排水、農業排水をリサイクルできるように進歩していくでしょう。これこそが今世紀中に人類が自由に使える、最大にして再生可能な淡水の源なのです」
- Loïc Fauchon, President, World Water Council, opening speech at Brazil Water Week 2020, October 26, 2020

北米では、水ストレスが切実な問題であり、気候変動による気温の上昇に起因する年間降雨量の減少と、河川および地下水の水位低下が深刻化しています。

大きな貯水池は、環境バッファー(水質を浄化する緩衝役)として機能します。2011年に発行されたレポート*1によると、貯水池が大きいほど滞留時間は長くなるため、大きな貯水池は「これまでの水の歴史を変える」ほどの役割を担います。貯水池があることで、再生水の希釈や、汚染物質の濃度を薄めるためのさまざまな処理を通じて、水質を改善することができます。

通常、干ばつが頻発する地域に大きな貯水池は造れないとされています*2。つまり、水質を浄化する環境バッファーが作れないということです。そのため、排水関連の規制を強化しなければならず、排水前に基準を満たすよう水を処理する必要があるため、追加コストがかかります。

カリフォルニア州では、再生水の直接飲用利用のための規制が2023年末までに完成する見通しです。これは、環境バッファーのない自治体の飲用水処理システムに、浄化された再生水を直接取り込むというものであり、投資家たちの関心も高まっています。

「Pure Water Project(ピュア・ウォーター・プロジェクト)」と呼ばれる事業計画では、希釈能力が限定的かつ滞留時間が最低限の環境バッファーを用いて、再生水を貯水池に放出する「貯水池湛水の強化」と呼ばれる手法を採用しています。これを検証、評価するのはロサンゼルス郡で中小自治体の広域水道事業を担うラス・ヴァージェネス水道局です。このプロジェクトは、日本の経済産業省やアメリカ内務省開拓局などの政府系機関、National Water Research Institute (NWRI)が支援しています。NWRIは有識者を集め、アメリカ、日本、シンガポール、イスラエルなどにおいて、水政策や導入技術についてのアドバイスを行うNPO法人です。また、Carollo Engineers社やYOKOGAWAなどの民間企業もプロジェクトに参画しており、YOKOGAWA はAIやIoTの運用保守ソリューションを提供しています。使用後の水を処理し、再利用することで、河川や地下水などの水資源への依存度を低下させることが可能です。また、近場で水が手に入れば、輸送におけるエネルギー消費も減少します。このプロジェクトは、一般の人々の意識向上にもつながっています。

水リサイクル(下水処理水循環利用)のシステムを確立するにあたっては、飲用水の必要量と高い品質基準の双方を考慮する必要があります。また、適切な技術を選定して組み込まない限り、効率的な下水処理や水質の安定化は望めません。再生水を生産する上で不可欠となるのが、下水処理の包括的な監視と制御です。従来的な培養技術に依存した試験方法では時間を要することが課題でした。そこでYOKOGAWAでは、急性毒性を検査するための毒性リスクの判定について、遺伝子解析に基づき病原菌を検出する技術を提供しています。水中の病原微生物の測定を大幅に迅速化することで、浄化された再生水の信頼性向上に貢献しています。

また、下水処理における水質改善には、工程ごとに独自の水質基準が設けられています。沈殿、酸化分解、栄養塩の除去、消毒などのさまざまな処理が時間をかけて行われ、各段階で確実に水質基準を達成しているか、細心の注意を払って管理されています。膨大なエネルギーの消費が必要になりますが、処理コストがかかればかかるほど再生水の購入者にしわ寄せがいくため、エネルギーの削減と最適な運用が極めて重要です。

そのため、Pure Water ProjectではYOKOGAWAが開発したデータ駆動型ソリューションに期待がかかっています。これはIoTによるシグナル情報に基づいたモデル化やシミュレーションにより、人間以上の性能で監視と解釈を行うAI解析を反映した制御を行うものです。オペレーションの最適化、さらにはエネルギー使用量の削減、処理コストの削減、水処理量の最大化、保守管理コストの削減にも貢献できます。

このソリューションは下水処理施設だけでなく、今後導入される限外ろ過膜、逆浸透膜、紫外線を用いた促進酸化法からなる高度な水処理施設の操業においても、Semi-autonomous(半自律化)に向けて大いに貢献できます。AI分析と半自律化は、複雑なシステムでも最適な処理を行えるようにオペレーターを支援します。

急速な産業の発展と世界人口の増加により、水の需給バランスを維持することはますます難しくなっており、水は再生不可能な資源へとなりつつあります。安全で信頼できる水を十分に供給できないばかりに、公衆衛生が危機的状況にあるような国や地域が、世界中に数多く存在しています。これは、YOKOGAWAが正面から向き合い、解決に専念していくべき課題の一つです。

私たちの美しい地球を次世代に引き継ぐために、YOKOGAWAでは、お客様や地方自治体、学界などのステークホルダーとともに、新たな試みに取り組んでいます。今後も循環型社会の実現に向けて、システムとテクノロジーの共創を加速することで、新たな価値を創造していきます。


参考文献

*1 : “Water Quality Improvements through the Environmental Buffer in Indirect Potable Reuse – Perception and Reality”; Jörg E. Drewes, Technical University of Munich, Germany, January 2011
*2 : “Role of Retention Time in the Environmental Buffer of Indirect Potable Reuse Projects: An Investigation on Managed Aquifer Recharge”; Jörg E. Drewes, Colorado School of Mines, April 2015

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