Circular economy Well-being

宇宙ビジネスが紡ぐ地球の未来

昨今、宇宙ビジネスが新たな産業分野として世界中で注目を浴びています。民間企業による宇宙飛行が実現し、人工衛星の打ち上げが急増するなど宇宙開発に対する資金や人材が相次いで投入され、その市場規模は急速に拡大。日本でも、JAXAを中心に産官学が連携を強化し、宇宙ビジネスの活性化を図ると同時に、未知の領域を探索する中で得られる技術や叡智を、環境問題や食糧問題など地球が直面する課題解決のヒントにしようと動き出しました。宇宙ビジネスの推進を通じて地球の明日を切り拓く、その大いなる挑戦が始まっています。

「宇宙開発」は大きなビジネスチャンス

― 官民で高まる月面探査・資源開発の機運。

1950年代に始まった宇宙開発への歩みは、今日、著しくその成長速度を増しています。モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなど各米金融大手の試算によると、2040年の宇宙ビジネスの市場は2016年の約3倍、1兆ドルを超える規模となると予測されています。こうした急成長の背景には、これまで国家プロジェクトだった宇宙産業への民間企業の進出があります。

アメリカでは、米航空宇宙局(NASA)が政府主導の宇宙開発から民間活用へと大きく方針を転換しました。従前の国家予算ベースだった宇宙産業「オールドスペース」に対し、民間企業を中心として宇宙利用に取り組む「ニュースペース」が新たなビジネス領域として生まれ、スタートアップ企業が続々と参入してきました。巨額化する宇宙開発を政府の力だけで進めるのではなく、NASAが民間企業に対して資金援助を行うことで、さまざまなプロジェクトへの挑戦が可能になったのです。こうした動きは日本においても同様です。宇宙産業を国の公共事業ではなく国際競争力のある産業へ生まれ変わらせようと、2017年に「宇宙産業ビジョン2030」が策定され、「宇宙産業の規模(約1.2兆円)を2030年代早期に倍増することを目指す」という目標が掲げられました。今までJAXAや各企業が単独でけん引してきた構造が大きく変化したのです。

民間企業の宇宙産業への参入が世界規模で進んだことに加え、技術革新や情報技術の発展から衛星開発費やロケットの製造コスト、宇宙への輸送にかかるコストが大きく削減されたことも宇宙産業が新たなビジネスとして活発化した大きな要因です。 輸送コストを例にとると、宇宙に1kgの物体を運搬する費用はこの20年で十分の一にまで削減されたといわれています。結果として、これまで宇宙と縁遠かった企業にとっても宇宙ビジネスへの参入障壁が低くなりました。

一言で宇宙ビジネスと言っても、ロケットや人工衛星の製造をはじめ、打ち上げサービス、衛星サービス、地上システム開発など、多様な領域が存在します。宇宙の活用の仕方から考えると、宇宙空間を利用する「宇宙利用」と、場所自体を開発する「宇宙開発」という大きく2つに分類できます。例えば、衛星放送や気象衛星などの衛星サービスや、国際宇宙ステーション(ISS)などで行われている実験を地球上の諸課題へ展開しようとするのが前者で、宇宙にロケットを飛ばし、月に基地をつくる、火星や深宇宙*1を探索しようとするのが後者です。
*1地球からの距離が200万km以上である宇宙

現在の宇宙ビジネスにおいて、そのほとんどは気象衛星や衛星放送、GPSなどの衛星サービスを中心とする「宇宙利用」であり、地上機器製造と併せて市場の約9割を占めています。 人口衛星から得られるリモートセンシングデータは、広域で多くの対象物を遠隔から把握できることから、デジタル変革のキーファクターとして地球上の産業オペレーションを高度化・効率化する可能性を含んでいます。例えば、気象衛星のデータは地上観測データと組み合わせることで精度が高まり、付加価値が提供できるようになりました。宇宙ビジネスが発展を遂げる現在、地球観測衛星や測位衛星の普及がもたらす恩恵は、私たちの生活に大きな関わりを持っているのです。 そして、「宇宙開発」への第一歩として、世界規模で挑んでいるのが月面でのインフラ構築を目指す月面探索です。人類が初めて月面に着陸した「アポロ計画」から約半世紀を経た2019年、NASAは月面探査プログラム「アルテミス計画」を発表しました。月に人類を送り、ゲートウェイ(月周回有人拠点)計画などを通じて物資を運び拠点を建設、月で人類が持続的な活動をしながら火星、深宇宙への探索を目指すという壮大なプロジェクトです。

2020年10月、この計画推進に対し、「すべての活動は平和目的のために行われる」としてアメリカ、カナダ、日本など8か国が合意しました。日本においても2023年度の宇宙関連予算案の総額は過去最大の6,119億円となり、その中にはこの「アルテミス計画」に関連する投資も盛り込まれています。さらに、経済産業省がアルテミス計画への参画に必要な月面におけるエネルギー関連技術開発のための実証プロジェクトを立ち上げるなど、官民一体となった動きが活発化しています。

リモートセンシングの写真

I think we’re going to the moon because it’s in the nature of the human being to face challenges.
わたしたちが月に行くのは、困難に立ち向かうことが人間の本質であるからだと思う。
- Neil Armstrong(ニール・アームストロング)

測る力とつなぐ力で宇宙のフロンティアを拓く

― 宇宙開発の技術を地球の未来にも応用

YOKOGAWAと宇宙の関わりは古く、今から60年以上前に遡ります。1961年には当時の東京大学生産技術研究所が打ち上げた地球観測用ロケット「カッパロケット」、さらに翌年にはNASAのロケットに、YOKOGAWAの電離層*2観測装置が搭載され、世界に先駆けて電離層の電子密度や電子温度、イオン密度を観測しました。以来、今日に至るまで宇宙開発機関や企業に計測・制御機器を多数納入してきました。
*2大気上層部にある分子や原子が、宇宙からの紫外線やエックス線などにより電離した領域。

近年では、2020年に日本初の有人実験施設であるISSの実験棟「きぼう」に納入された顕微鏡システム*3にYOKOGAWAの共焦点スキャナユニットが採用され、生命科学分野の研究開発に役立てられています。これにより、ISSの微小重力環境という特殊な状況において、生きている細胞の活動を高速・高精細に観察、細胞内のタンパク質の動きや生理反応の観察が可能となり、基礎生命科学などへの貢献が期待されます。
*3 千代田化工建設株式会社が開発

一方、「宇宙開発」領域においても、月面プラントを建設する時代を視野に産官学連携での研究開発に参画しています。行政・学術界・産業界から構成される「月面産業ビジョン協議会」に参加し、株式会社ispaceが取り組む民間企業初となる無人ランダーでの月面探査プロジェクト「HAKUTO-R」のミッションのサポーティングカンパニーとなりました。同プロジェクトが目指すのは、月面での水資源の探査および利活用の検証です。月面にある砂(レゴリス)に含まれる微量の水氷を集めて液化し、水素と酸素に電気分解した後、水素を発電やロケットの燃料として利用する月面でのサプライチェーンを構築しようとしています。

このプロジェクトで生かされるのが、YOKOGAWAのコアコンピタンスである「測る力とつなぐ力」です。
レーザーガス分析計「TDLS」の技術を応用した計測技術を開発し、「月の水」の探査装置として利用します。「TDLS」は、ガスにレーザーを当てることで酸素、水分などの濃度を測定。広範囲の耐温度に加え、可動部品がないという耐久性に優れた特性から、月面を移動しながらレゴリスに含まれる水の分布を把握できるようにすることが期待されています。

月面という未踏領域への産業基盤の構築には、水探査から水の掘削、水素の生成、貯蔵など課題が多数存在します。超高真空、昼夜の気温差が200℃以上、宇宙線が飛来する過酷な状況でもセンサーや制御システムが動作しなければなりません。これまで北極圏、砂漠、洋上などでも工業プラントの稼働に貢献してきたYOKOGAWAの技術を、宇宙という極限の環境下にも応用しようとしています。

また、月面上のプラントではオペレーターが駐留していないことを想定する必要があります。地球上から超遠隔で操作が可能、あるいはオペレーターがいなくても自律運転できる設備が求められます。YOKOGAWAには複数の設備のデータを束ねた遠隔制御、プラント操業の自律制御についてそれぞれ実績があります。月と地球という超遠距離の操業を実現することができれば、これらの技術は地球での用途でさらに広がりを見せることでしょう。

資源が限られ、特殊な環境である宇宙では、地産地消型の省資源技術や資源のリサイクルが必要であり、サーキュラーエコノミーの構築が求められます。宇宙環境で開発された革新的なリサイクル技術、ソリューションを地球に応用できれば、地球環境の改善に寄与できる可能性があります。ただ、こうした取り組みは一企業が成し得るものではありません。YOKOGAWAは宇宙という新たな分野においても各プレーヤーと共創し、それぞれが持つ強みを掛け合わせたチャレンジを続けます。地球は膨大な宇宙の一部であり、「宇宙を考えることは、すなわち地球を考えること」です。持続可能な未来を切り拓くため、宇宙ビジネスというフロンティアを舞台に、これからも未来への物語を紡いでいきます。

次世代を担う開拓者の写真


参考文献

米国衛星産業協会「State of the Satellite Industry」
Click Here To View - State of the Satellite Industry Report (sia.org)