AIが躍進させる産業の自律化
近代工業化された工場が初めて稼働してから約2世紀、そしてプラント向け分散形制御システムが発表されてから半世紀。人類全体、とりわけ産業界は、計り知れない可能性を秘めている一方で、環境、サプライチェーン、セキュリティ、そして労働力といった複雑で新しい課題に直面しています。これらの課題に対処するため、産業界は生産性の向上、持続可能性の改善、レジリエンス(回復力)の向上、そしてより強固な労働力の確保に向けて、最適化を進めていかなければなりません。こうした困難な課題を打開する重要な道の一つは、産業プロセスにおけるAIの導入と自動化をさらに推進し、より高度な自律操業を実現することです。YOKOGAWAは、産業プラントが高度な自動化とAIによって自律的に学習、適応し、人間の限界を超えてパフォーマンスを発揮することで、人間の可能性を解き放つ未来の実現に向けて取り組んでいます。
人間の労働を機械に置き換えることは、世界に莫大な富と健康をもたらしました。そして、省力化、距離の短縮、コミュニケーションの促進、知識の拡張といった、現代社会を特徴づける数々の革新をもたらしました。しかし同時に、現状を痛ましいほど変革させ、人類にとって最も深刻な多くの課題を生み出してきました。
1804年に詩人ウィリアム・ブレイクが「暗黒の悪魔のような工場」と表現したイギリスの工業化の初期の工場における劣悪な労働環境と地域の汚染から、都市化、人口増加、社会的不平等、環境悪化といったより広範な構造的課題*1に至るまで、地球規模の絶え間ない産業化の発展は、世代ごとに新たな問題を生み出してきました。幸いなことに、これらの問題の多くは、産業プロセスの効率性、安全性、持続可能性の向上とともに、労働規制や環境規制の強化といった政府の施策によって解決されています*2。
機械と私たちの関係における二面的な進化は続いており、今、新たな段階に入りつつあります。
蒸気動力による機械化、電力による大量生産、そしてエレクトロニクスとITによる自動化といった革命を経て、人類は今、物理、デジタル、そして生物的領域を融合させた技術による第四次産業革命の真っ只中にいると主張する人もいます。*3 さらに、経済生産におけるこうした変化は、人類全体だけでなく、産業そのものに対しても多様なリスクをもたらしています。
今日の産業界の課題
2023年、世界経済フォーラム(WEF)はケンブリッジ大学産業イノベーション政策グループおよび国連工業開発機関(UNDO)と協力し、産業界が将来に向けて取り組むべき5つの重要課題を特定しました。*4
何よりもまず、地球の存続に関わる課題として「環境悪化、資源不足、そしてグリーントランジションの必要性」が挙げられます。資源の利用と炭素排出量は、生産チェーン全体にわたって追跡し、最小限に抑える必要があります。*5
この膨大な課題を達成する一方で、産業界は気候災害、パンデミック、地政学的緊張、サイバー攻撃といったサプライチェーンの混乱に備えなければなりません。さらに、AIなどの新技術の導入と拡大におけるガバナンス、互換性、そしてセキュリティ上の課題に対処するための新たな枠組みの構築が不可欠です。デジタルトランスフォーメーションを加速させると同時に、サイバーセキュリティの課題にも対処する必要があります。*6
また、スキルギャップ、労働力不足、そして労働力のリスキリングニーズへの対応も求められます。産業界は「大規模な人員交代」、すなわち退職や新規労働者の不足による熟練労働力の減少という課題に直面しており、熟練したプラントオペレータやベテラン労働者のノウハウを伝承しなければなりません。*7 ますます複雑化し、24時間体制で稼働するプラントの操業は、労働者に過大な負担をかける恐れもあります。
そして最後に、ビジネスにおいて産業界は、収益目標と「社会的利益と公平な成長」の促進を両立させなければなりません。*8 社会的に公正で責任ある資本主義は、株主だけでなく、すべての関係者のニーズを考慮する必要があります。
AIによる産業の自動化から自律化へ
この困難な課題を乗り越える道の一つが、産業プロセスにおけるAIの導入と自動化を加速させることです。最終的には、プラントの資産と操業はより高いレベルの自律性を獲得し、人間による最少限の介入で学習、適応、対応が可能になり、オペレータは最適化や創造性といったより高度なタスクに集中できるようになります。
ホワイトペーパー「インテリジェント時代の産業」は、産業におけるAIと自動化がこうした課題の多くを解決し、生産性と競争力を大幅に向上させることで効率性を高め、資源の使用と廃棄物を最少限に抑えつつ、人員を創造性、監督、意思決定に集中できるようになると述べています。*9
このレポートの調査では、企業の89%が産業オペレーションにAIは非常に関連性があると認識しており、生産ネットワークへの導入を計画しています。実際、AIはすでに生産効率を向上させており、早期に導入した企業は製造コストを平均14%削減したとの報告があります。現時点では、産業分野におけるAIの導入率は低いものの、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、とくにプロセス産業のプラントにおいて、その潜在的なメリットは大きいと主張しています。
「プロセス産業のプラントのオペレータは、AIのメリットを享受するのに特に有利な立場にあります。多くのプラントはすでに、データ処理を用いたデータ駆動型の意思決定に大きく依存しています」と、マッキンゼーのグローバル・エネルギー&マテリアル・プラクティスは述べています。「そして今日のほとんどのプラントは、ネットワーク設計、制御システム、履歴データの収集など、AIの実現基盤の技術に多額の投資を行っています。」*10
産業の課題解決を導くCENTUM
YOKOGAWAは、産業オートメーションにおけるAIの導入と加速のため、重要なソリューションを先駆的に提供しています。
1975年、横河電機は世界初の分散形制御システムとして「CENTUM」を発表しました。そして昨年、CENTUMの最新バージョンであるCENTUM VP Release 7を発表し、産業のオートメーション化とAI活用の利点を加速させることを目指しています。制御、監視範囲の拡大、予知保全機能、オペレータの作業負荷軽減を実現し、さらに強化されたサイバーセキュリティ機能を備え、プラントオペレータのノウハウを活用したAI駆動型のプラント運転を実現します。
「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高まる現代において、製造現場とマネジメントに求められる条件はますます複雑化しています」と、横河電機の執行役である山本光浩は述べています。 「CENTUM VP R7は、安定操業の実現と自律操業の範囲拡大により、お客様のよりサステナブルな社会と事業成長の実現に貢献します。」
YOKOGAWAは、1970年代のコンピュータ化と自動化の黎明期、1980年代から1990年代にかけてのPC、インターネット、デジタル技術の急速な普及、2000年代のモバイルおよび無線技術の台頭、そして過去10年間のビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoTソリューションの登場など、変化する産業ニーズの変化や幅広い技術トレンドに対応するため、長年にわたり革新的な制御、自動化技術を進化させてきた実績を有しています。
CENTUMは、これらのトレンドと技術の進歩を柔軟に統合させ、新たな機能と性能を継続的に追加して、お客様のオペレーションにおいてより高度な「信頼性、安定性、継続性」を実現してきました。現在10世代目を迎えたCENTUMは、世界100か国以上で累計約3万台のシステムが導入され、DCS市場のマーケットリーダーとなっています。これらのシステムは、石油・ガス、石油化学、化学、鉄鋼、紙パルプ、電力、水処理など幅広い分野で活用されています。
今後を見据え、YOKOGAWAはDCSが牽引すると思われる2つの重要なトレンドをとらえています。それは、予知保全、品質管理、自動最適化を推進するAIと機械学習の進歩、そしてシミュレーションと最適化のためのデジタルツインの活用の進歩です。 これらの機能はすべて、「自律操業」という究極の目標の実現に貢献します。
DCSだけでなくAIアルゴリズムも
YOKOGAWAは、プラント向けAI対応のDCSの開発に加え、さまざまな分野での産業用AIの有効性を実証してきました。
2022年、旧JSR株式会社エラストマー事業部門(現 株式会社ENEOSマテリアル)と共同で、強化学習AIアルゴリズム「FKDPP(Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)」を導入しました。この技術は、YOKOGAWAと奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が2018年に共同で開発したもので、IEEE国際学会(International Conference on Automation Science and Engineering)でプラント管理に活用可能な世界初の強化学習技術として認められました。 合成ゴム原料を製造するJSRの化学プラントにおいて、YOKOGAWAはAIをCENTUMに統合し、プラントを自律的かつ安全に35日間制御することに世界初で成功し、品質の安定化、高収率化、そして省エネルギー化を実現しました。
YOKOGAWAのこのAIソリューションは、産業施設における操業の制御を継続し、1年間の実証実験を経て世界で初めて正式に採用された強化学習AIとなりました。FKDPPはバルブ操作の自動化に活用され、オペレータの作業負荷軽減、規格外品の発生防止、蒸気使用量とCO2排出量の40%削減を実現し、省エネルギーとコスト削減に貢献しました。
この成功をもとにYOKOGAWAは2025年、世界有数の総合エネルギー・化学企業であるアラムコが保有するファディリ・ガスプラントに、FKDPPの相互に連携する複数の自律制御AIを導入しました。 AIソリューションは、工場での酸性ガス除去(AGR)操作を直接かつ自律的に制御、最適化し、エネルギーと化学物質の使用量を削減します。
責任ある形でAIと自動化を推し進める
イギリスで初めて近代工業化された工場が操業を開始してから約2世紀*11、そして世界初の分散形制御システムが発表されてから半世紀が経った今、YOKOGAWAは産業プラントが人間の限界を超えた性能を発揮しつつ、人間の可能性を解き放つ未来に向けて取り組んでいます。
参考文献
*1 ブリタニカ百科事典: https://www.britannica.com/story/the-rise-of-the-machines-pros-and-cons-of-the-industrial-revolution
*2 ブリタニカ百科事典: https://www.britannica.com/topic/industrialization
*3 世界経済フォーラム: https://www.weforum.org/stories/2016/01/the-fourth-industrial-revolution-what-it-means-and-how-to-respond/
*4 世界経済フォーラム: https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Future_of_Industrial_Strategies_2023.pdf
*5 世界経済フォーラム: https://www.weforum.org/publications/net-zero-industry-tracker-2024/
*6 世界経済フォーラム : https://initiatives.weforum.org/cyberresilienceindustries/activities
*7 451 Alliance: https://blog.451alliance.com/smart-technologies-respond-to-industrys-great-crew-change/
*8 世界経済フォーラム: https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Future_of_Industrial_Strategies_2023.pdf
*9 世界経済フォーラム: https://www.weforum.org/stories/2025/01/why-manufacturers-should-embrace-next-frontier-ai-agents/
*10 マッキンゼー・アンド ・カンパニー: https://www.mckinsey.com/industries/metals-and-mining/our-insights/ai-the-next-frontier-of-performance-in-industrial-processing-plants?cid=soc-web#/
*11 Historic England: https://historicengland.org.uk/whats-new/research/back-issues/when-soho-led-the-world/
