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YOKOGAWA

横河電機株式会社

雑誌掲載記事

「運転支援から運転操業システムへ」

雑誌「計装」創刊50周年企画に掲載された内容です。

1.はじめに

工場の現場における生産効率や品質の向上のための「見える化」は今や常識となってきているが、5年ほど前は何をおいても「生産第一」ではなかっただろうか。この5年の間に省エネ・省コストへの取り組みが強化され、更に団塊の世代が定年を迎える前にノウハウをどうにかして形にして残そうという動きが、製造業における「見える化」を促進せざる得ない状況に追い込んだのではなかろうか。しかしながら、まだまだ生産が第一であり、原材料・エネルギー・時間・労力等のロスが見えておらず、生産は間に合っているが、効率や収率が思うように上がっていない工場も少なくないのではなかろうか。 DCS等の制御装置の進化により、工場の生産における全自動化や省力化は進んだと言えるが、DCSが相手にしているのはプラントであり設備である。生産はプラントや設備だけで成り立っているのではなく、生産を進める業務そのものや、そこに介在する人が効率や品質に大きく関わっているはずである。

2.運転操業支援の必要性

運転操業支援の位置づけ

図1 運転操業支援の位置づけ

ここで、言葉の定義をしておきたい。「運転」というものをDCS等の制御装置やそれをオペレーションすることと定義する。これに対して、操業全体の中の運転に関わる部分を「運転操業」とし、ひとつの製造部門での運転計画から製造、そして実績収集、解析までの業務を指すものとする。(図1)
日々の運転計画・作業指示に基づいた操業により原料から製品が製造されるが、その過程には飛び込みオーダーや予期せぬプラントのトラブル、オペレーションミス等の生産性向上を阻害する要因があり、その発生の事実や対処、その後の指示を含めて次のシフトに情報を引き継いでいかなければならない。
また、何故トラブルが起きたのか、ミスが発生したのか、どう対処したのか、等の事実はノウハウそのものであり、これも継承されていかなければならない情報である。
これらの情報が人の頭の中にしかないものであれば技術は継承されず、効率も品質も向上することは無い。これらの情報の一部が紙として残されていることもある。
紙だからこそ伝わることもあるが、情報量が多くなり、時間が経てばその検索は煩雑になり、情報の再利用は困難になると思われる。全ての情報がIT化されることが目的ではないが、情報が簡単に再利用され、同じ問題が発生しなくなることは向上につながるはずである。
人が介在する運転業務の中で、業務遂行上の情報を貯え、その情報の再利用を可能にし、誰でも同じ運転が行なえ、同じ対処が出来るように支援するのが運転操業支援である。

3.運転業務支援

運転操業支援の中核となる,運転業務支援について説明する

3.1 運転員の業務とは
運転員の直接業務には、運転に関わる全体操作監視、手動調整、現場連携操作、記録、引継ぎ交替があり、間接業務としては改善活動、運転関連教育、基礎教育などがある(表1、図2)。直接業務では,直交替(引継ぎ)時に、直長がこれからの運転や作業内容について指示を行う。運転員はそれに従いプラントの安定、安全、品質、効率に留意して運転を行う。直交替時には作業の結果や運転中に発生した事柄を、次直の運転員に伝え、運転報告書として引継ぎ簿を作成する。間接業務においては、直接業務をより効率化するための業務改善サイクルによる改善活動として、作業標準の見直しやベテラン運転員から新人運転員への教育などが行われている。

直接業務
全体操作監視 周期的な画面展開、操作結果の確認、アラームしきい値変更
手動調整 警報発生・不安定・未自動化ループ調整操作、運転条件(生産量、銘柄、原材料、製品貯蔵、温度、圧力、流量等)変更操作
現場連携操作 現場計器調整連絡、機器補修調整連絡、ポンプなど切替操作、バルブ切替操作、排水切替操作、配管操作
記録 運転日誌、作業記録、運転記録、アラーム、チェックリスト、分析計チェックシート、トラブル報告書
引継ぎ(直交代) 運転状態、作業、工事、補修要領確認
【間接業務】
改善活動、運転関連教育、基礎教育

表1 運転員の業務                               図2 運転業務の流れ

3.2 従来の運転業務の改善支援
  弊社は、運転効率向上支援パッケージ「Exapilot」やプラント情報管理システム「Exaquantum」を始めとする、直接業務の実施や記録を支援する商品を多く開発してきた。
 これらを運転業務改善のP(Plan)D(Do)C(Check)A(Act)サイクルに当てはめた場合、Do(実施・記録)に関する商品は数多いが、CheckやActに対しての商品のバラエティは決して多くなかった。
  
3.3 人に着目した情報
弊社が、CheckやActの商品をあまり多く開発してこなかったひとつの理由として、CheckやActは人に依存する所が多く、システム化が難しかったことが挙げられる。
また、今まではプロセスや機器のデータ、アラームなどのプラント制御の観点のデータは残されていたが、運転業務に関するデータ、つまり人に着目した、単位作業、タスク(目的を持った定型化作業)、運転員の異常対応や微調整といった観点の情報が残されておらず、改善の着目点を見出すのが難しかったことも挙げられる。
人に着目した情報の例としては、銘柄変更作業での手動による昇温操作、減圧操作、設備の切替などの作業内容と結果に関する情報が、それにあたる。

3.4 運転業務支援システムのコンセプト
継続的に運転操業の価値を向上させるためには、PDCAサイクルに則った活動が効果的である。運転業務支援システムは、製造部署で行われている運転業務改善のPDCAサイクルを、より効率良く、かつ継続的に回せるようにするため、そのサイクルに沿った支援機能を提供している。

3.5 運転業務改善PDCAサイクル
運転業務改善サイクルは、運転業務の計画達成のためのループと問題改善ループを組み合わせた、ダブルループの構造をとることが多い。運転業務を行っている際の計画達成ループのAct(原因・現象除去)ステップにおいて、間接業務で行われる問題改善ループをまわす構造になっている。(図3)計画達成ループは、直接業務で実施される「計画」・「実施・記録」・「評価」と,間接業務で実施される「原因・現象除去」のステップで構成される。
問題改善ループは、計画達成ループの「評価」で判断された内容から、原因・現象を除去する目的で、問題に着目し、原因や異常を見える化し、問題解決を図り、それを確認するステップで構成される。なお、計画達成ループの「計画」、「実施・記録」、「評価」のステップにおける作業対象者は運転員である。「原因・現象除去」の作業は、運転スタッフ(管理者)や直長(監督者)が対象であるが、最近は運転員も積極的に参加していることが多い。                       図3 運転業務改善PDCAサイクル

3.6 運転業務支援システム

工程名 運転業務改善機能名
計画(Plan) 計画管理
実施、記録(Do)

操作・操作支援、運転監視、現場作業支援、知識支援、ヒューマンエラー防止、アラーム管理、異常時対応支援、記録、引継ぎ簿作成支援

評価(Check)

工程評価、直交代支援、イベントレポート

原因、現象除去(Act) 問題発見 KPI表示、工程評価
見える化 イベント解析、傾向分析、工程指標表示
問題解決 実施・記録昨日作成支援、知識作成支援、運転員教育
確認 機能検証支援
表2 運転業務改善機能群

運転業務支援システムは、運転業務改善PDCAサイクルの各ステップに対応した支援機能群を持つ。ユーザはその機能群から、各ステップでの改善に必要な機能を選択し、パラメータ定義や、その機能にカスタマイズを施すことにより改善に活用できる。(表2)

これらの機能は、運転員の業務に連携して動作させることにより、運転業務全体を支援することができる。
また,それぞれの機能は、実施した事実を記録する機能を持ち、Actでの解析や問題発見のための情報を積極的に記録する。例えば、作業の開始や終了の時刻、異常発生の時刻、発生要因等の解析のための情報が対象になる。

以下に、運転業務改善PDCAサイクルを効率的にまわす要素である、運転工程指標と、原因・現象を除去する手段の開発環境について説明する。

   (1) 運転工程指標
運転業務改善PDCAサイクルを効率良く回すには、評価(Check)や原因・現象除去(Act)の機能充実が不可欠であり、それを実現させるには、改善をより定量的に評価する運転工程指標が必須である。
PDCAサイクルの全てのステップで、運転工程指標の現在、過去情報を参照できるようにすることにより、運転レベルの評価ができるようになる。
運転工程指標とは、プラント運転の工程毎に「安定」「安全」「品質」「効率」を指標としたもので、例えば「効率」であれば、銘柄変更工程に掛かる時間、「安定」であればその工程のプロセスアラーム数や操作回数などが指標となる。

   (2) 原因・現象を除去する機能の開発環境

原因・現象を除去する手段には、機器保全、作業の徹底、運転員の教育や運転業務改善機能の導入がある。ここでは、運転業務の改善機能について説明する。

この機能は、問題を身近に感じ、改善の必要性を理解している運転員や運転スタッフが、機能を容易に開発できる、プログラミングレスな環境を提供する。その開発環境により、業務改善機能のロジック、操作監視画面、ヒストリカルデータ管理機能などが作成できる。

ロジックを作成する場合、機能アイコンを組み合わせたフローチャートとロジックチャート形式で記述でき、データ管理機能のヒストリカルデータや外部データへも機能アイコン
でアクセスが行える。                                                   図4 改善ソフトウェア構成イメージ

操作監視画面は、画面作成用の台紙に画面部品を貼り付け、ロジック機能やデータ管理機能にあるデータのアドレスや名称を割り付けことにより、データを表示することができる。(図4)
この開発環境によって、製造現場に近い人が、その場で対策を打ち、その効果を確認でき、より効率良く運転業務改善サイクルを回すことが可能となる。

3.7 運転業務での活用例
運転業務支援システムの石油化学における銘柄変更の活用例を紹介する。

運転の計画は、運転スタッフと直長が立案し、直交替(引継ぎ)時に、銘柄変更の開始予定や工事予定などが運転員に指示され、その計画を計画管理機能の計画管理表に登録・管理する。
運転の実施では、引継ぎ時に指示された銘柄変更の開始時刻に達すると、運転員に対して計画管理機能から銘柄変更開始の指示が出される。準備工程では、運転員に対して現場手動弁の開閉やライン切替などに対する的確な作業指示が行われ、昇温や減圧工程では高度制御を使用することにより、銘柄切替が最短で実現できる。更に、銘柄変更中に機器や圧力などの定常監視を行い、機器の異常を検知した場合、異常対応指示を運転員に通知し、被害の拡大を最小限にくい止める。また、アラームやモードの放置監視機能などにより、運転員のヒューマンエラーの防止を行い、トラブルの芽を事前に摘み取る。
運転の記録では、運転データと共に、銘柄変更の準備工程、昇温工程、機器異常やヒューマンエラーの発生状況、作業結果や機器の稼働状況が残される。
評価の実施では、運転中に記録された事象や作業結果、機器の稼働状況を、次直交替時に運転記録で確認する。そして、その情報を基に引き継ぎ簿が作成される。また、運転中の評価として、運転工程指標の状況を運転員に見せることで、現在の運転が適正か否かを認知させることができる。
問題点の解決については、目標とされた指標と実際の指標を比較して検討する方法がある。例えば、全体工程のばらつきが問題になる場合、過去の銘柄変更における各工程の運転工程指標と全体工程の運転工程指標の相関を調べ、相関が高い工程を抽出して、ばらつきの原因を検討する方法である。


 

4.まとめ

4.1 ノウハウ・知識の活用
運転業務を支援する機能は、ユーザの経験から発達したノウハウや知識を形式知化したものと言える。
その機能は、運転業務改善に取り組むユーザにとって極めて有益であり、このシステムはそれらの機能を別のプラントにある運転業務支援システムでも活用できる環境を提供する。実際にこのシステムを導入したプラントで大きな効果を上げている事例が数多く報告されている。

4.2 運転業務支援から運転操業システムへ
運転業務支援は、今後DCSとPIMSそして、上記した運転業務支援機能との融合を図ることにより、運転操業システムへと発展していく。
これは、人とシステムの更なる融合を図ることであり、運転操業の価値を最大にする、新たなシステムへ移行することを意味するものとなるであろう。

Exapilot、Exaquantumは横河電機(株)の登録商標です。


<参考文献>
遠藤 功「見える化」東洋経済新報社 2007年

掲載号:2007.09

<執筆者>
横河電機(株) IA事業部 システム事業センター PAPMK部

   

 

  渡辺 恒   赤松 信夫  新名 伸仁
 ワタナベ・ヒサシ  アカマツ・ノブオ  ニイナ・ノブヒロ

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